建物・土地活用ガイド

2024/02/28

24年も建築工事費の上昇可能性は高い。吸収できる要因は?

2024年の建築工事費の見通しと賃料動向について解説します。

物価上昇率は多少おさまってきたが…

物価動向を示す全国消費者物価指数は、2023年前半は3%台が続いていましたが最新の2023年12月分では前年同月比+2.3%(コア指数)となりました。また、先行指標とされる東京都区部消費者物価指数は1月分が26日に公表されましたが、前年同月比+1.6%と2022年5月以来(1年8カ月ぶり)の2%を下回る数字(季節調整済み前月比では−0.1%)となり、物価上昇は節目を迎えてきました。
ただ、この背景には政府が価格抑制策を施しているエネルギー価格の下落が大きく寄与しています。輸入品の価格上昇が落ち着いてきたことも影響していそうです。

消費者物価指数(コアCPI) 全国・東京都区部(前年同月比)

総務省統計局「消費者物価指数」より作成

図は2020年1月からの建て方別建設工事費デフレーターの推移です。

建築工事費デフレーターの最新動向

建設工事費デフレーターについてや過去の記事は以下をご参考ください。
 @賃貸住宅(SRC・RC造)の工事費はどれくらい上昇しているのか?
 A続・工事費デフレーター分析 〜高止まりが続く工事費の現状と背景〜
 B続々・工事費はどこまで上昇するのか? 最新工事費デフレーター分析

では、建築費の上昇はこのところどうなっているのでしょうか?

建設工事費デフレーター:建て方別前年同月比の推移(2020年1月〜)

国土交通省「建設工事費デフレーター」より作成

図2は、建築工事費デフレーター(住宅)の前年同月比の推移を建て方別で示しています。(2020年1月〜2023年10月まで)
建築工事費は高止まりが続いており、上昇率は小さくなっているものの、まだ上昇傾向にあります。
建て方別では、木造系の上昇率はかなり低下しているものの、RC系は前年同月比で2%以上の上昇が続いています。大都市部だけでなく地方都市でも進む再開発、大型工事がしばらく続いており、その影響が大きいものと思われます。

今後も工事費は上昇傾向

一時下落傾向だったドル相場は2024年に入り再び上昇し、円安基調が続いています。輸入資材の高止まりは続きそうです。また、建設業における人手不足も続いており、これに伴い労働人件費の上昇は避けられそうにありません。
この先も建築工事費の上昇は避けられない様相です。建築をお考えの方は早めの決断が良さそうです。

工事費の長期推移

物価の上昇とともに住宅賃料(家賃)の上昇も鮮明になってきました。
家賃の上昇は物価に連動する要因に加えて、需給のバランス、世帯における可処分所得(手取り収入)の増減も関わってきます。

2013年以降、実需用マンション、投資用マンションの価格が上昇している割には、都市部での賃貸住宅の賃料(家賃)はその上昇幅を比較すると少ない状況が続きました。そのため、賃料(正確にはNOI※)÷ 物件価格 で算出される、投資利回りは一貫して低下が続いていました。
※賃料から管理費や固定資産税などの経費を控除した純利益

しかし、ここ数年様相が変わってきています。主に分譲賃貸マンションなどに多いファミリータイプ物件の賃料は、需要の増加に加えて可処分所得が増えてきていることで2021年以降上昇しています。
主に単身世帯がターゲットのワンルーム・コンパクトタイプの物件の賃料も2022年以降、上昇が鮮明になってきました。コロナ禍で低下したオフィス賃料も、地域により回復の兆しが見られ、しばらく同様の傾向が続くでしょう。

2024年以降も建築工事費の上昇は続き、建築時の総額は増えると予想されます。ですが、賃貸物件の場合、賃料増によりある程度は吸収できるものと思われます。
また、仮に2024年中にマイナス金利政策が解除され金利が上がっても、同様に賃料上昇分である程度吸収できるでしょう。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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