建物・土地活用ガイド

2023/09/19

続々・工事費はどこまで上昇するのか? 最新工事費デフレーター分析

物価上昇が続いています。様々な物の値段が上がっている中で、建設工事費関連の価格はすでに2021年春ごろから大幅に上昇を続けており、工事費の高止まりが続いています。

これまでの記事でも建築工事費の分析と解説を行ってきましたが、その後も物価上昇と円安が続いていること、そして「建築業界の2024年問題」も間近に迫ってきたことを受けて、今後の建設工事費の見通しについて続編をお届けします。

建設工事費上昇の現状

国土交通省発表23年5月分までの建設工事費デフレーターを見てみましょう。

建設工事費デフレーターについての過去の記事は以下をご参考ください。
 @賃貸住宅(SRC・RC造)の工事費はどれくらい上昇しているのか?
 A続・工事費デフレーター分析 〜高止まりが続く工事費の現状と背景〜

建設工事費デフレーター(住宅総合)の推移(2015年度基準)

国土交通省「建設工事費デフレーター」より作成

図は2020年1月からの建て方別建設工事費デフレーターの推移です。

グラフを見ると、建設工事費は2021年に入り上昇が顕著になります。「ウッドショック」と呼ばれた木材の急激な需要の高まりで木材価格の高騰が見られたこと、そして建築資材の多くを輸入に頼っている日本において原材料生産国でのインフレの影響を受けた事、円安が進行していたことなどが要因でした。
前年同月比の上昇率は22年6月頃がピークでその後価格は高止まりが続いていますが、上昇率だけ見れば徐々に低下し、木造住宅の工事費は23年4月には僅かながら前年同月比でマイナスとなっています。

数字だけ見ればこのまま落ち着くようにも見えましたが、建設系企業の方々と話をしてもそんな気配は感じられませんでした。その肌感覚どおり、23年5月には再び前年同月比が上昇に転じました。

工事費の長期推移

建設工事費(住宅・非住宅含む建設総合)は2015年度を基準値として、2023年5月分では122.1となっており、概ね2割程度はUPしていることになります。ちなみに、住宅系のみと非住宅系のみに分けてもほとんど変わらずとなっています。

この内、住宅系(住宅総合)のみを取り上げると下のようなグラフとなります。

建設工事費デフレーター建て方別前年同月比の推移(2020年1月〜)

国土交通省「建設工事費デフレーター」より作成

2016年から2020年くらいまではジワジワと上昇していますが、上昇スピードはゆっくりです。2021年から2022年に急激に上昇し、2022年後半からは一段落していましたが、ここにきて高値のポジションから再び上昇ムードになってきています。

再び工事費上昇の背景に何が?

なぜ再び上昇ムードになってきたのでしょうか?
その要因として考えられるのは、以下のような点です。

@ 円安がさらに進行していること
2023年の年初は130円前後で推移していましたが、5月以降は再び130円台半ばを超え、8月には145円を超えています。

A 世界各地でのインフレが続いていること
原材料輸入元である、アメリカ、ヨーロッパ、アジア各国の多くの国でインフレが続いています。

B 原油価格が上昇していること
原材料を船で運ぶ、陸送する、重機を動かす、この全てで石油を使います。2022年後半から多少落ち着いていた原油価格ですが、23年5月頃から上昇しています。

C 輸送コストが上昇していること
建築現場まで建築資材を運ぶ費用などの上昇です。Bの理由に加えて、ドライバーなど物流に携わる方々の人件費が大きく上昇しています。
また、ドライバーの労働時間(残業時間)の上限が決められ、人手不足も深刻になり、人件費の上昇は続きそうです。

D 建設業就業者の人件費が上昇していること
※次項で解説します。

建設業界の24年問題

建設費の上昇に拍車をかけることになりそうなのが、「建設業界の2024年問題」と言われる2024年4月から施工の働き方改革による残業上限規制です。ドライバーや医師とともに建設業労働者も5年間猶予されていた働き方改革が適用されます。この規制の施行で従来からの人手不足がより深刻になり、労働人件費が上昇。残業を依頼することもできなくなり、工期が伸びることで工事費の上昇は確実と思われます。

今後の見通し

ここまで見てきたように、建設工事費の上昇はまだまだこれからになりそうです。
昨今の状況を見れば、これからしばらくの間は「今が工事費の最安値」という可能性は極めて高いと思われます。早め早めの対応が求められます。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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