TSUGITE 第13号 2018.9月発行

第13号の特集は「多様化する宿泊施設の今とこれから。」をテーマに、背景や法律・制度についてご紹介。
※TSUGITEは松建設で建築いただいたオーナー様向けの情報誌です。WEBでは誌面の一部を公開しています。

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多様化する宿泊施設の今とこれから。


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最近、新聞やテレビでも話題の「インバウンド※1 需要」。訪日外国人による日本国内での消費活動を指す言葉として広く知られるようになりました。
そこで今号は、インバウンド需要の増加に伴い、民泊サービス ※2 などに代表される「多様化する宿泊施設」をテーマに特集します。
その背景や市場動向、宿泊施設の基本概要、さらには事業視点の検討に至るまで、今だからこそ知っておきたい宿泊施設のことを一緒に考えていきましょう。

近年、街を賑わす訪日外国人旅行者。都市部はもちろん地方都市でも外国人旅行者の姿を目にする機会が増えてきました。その背景には、LCC(格安航空会社)の就航促進やビザの発給要件緩和など、観光先進国を目指すために政府が策定した「明日の日本を支える観光ビジョン ※3 」のもと、さまざまな施策が戦略的に行われてきたことが挙げられます。
東京オリンピックをきっかけに進む関連施設の建設や交通インフラ整備も観光資源としてプラスに寄与。さらに統合型リゾート(IR ) ※4 の誘致等に代表される、新たな観光資源の開拓や滞在型観光の促進も期待され、今後もインバウンド需要は増していくものと思われます。
観光立国として歩みを進めていく中、かつてインバウンドの主流だった団体旅行が減少し、個人旅行へ大きくシフトするとともにリピーターも増加。宿泊トレンドも変化しニーズも多様化しています。また、日本人の国内観光も堅調に推移しており、現在その受け皿となる幅広いニーズに対応した宿泊施設がより必要とされています。今後も宿泊施設を取り巻く市場環境は、ホテルや旅館、民泊などさまざまなカテゴリーが刺激し合いながら、ますます活性化していくものと考えられます。

トレンドワード解説
  • ※1 インバウンド
    訪日外国人旅行の意味で使われる観光用語。
  • ※2 民泊サービス
    住宅(戸建住宅、共同住宅等)の全部又は一部を活用して宿泊サービスを提供すること。
  • ※3 「明日の日本を支える観光ビジョン」
    2016年3月、政府が地方創生、観光産業の革新など、観光先進国への新たな国づくりに向けて策定した観光ビジョン。
  • ※4 統合型リゾート/IR(インテグレーテッド・リゾートの略称)
    カジノやホテル、会議場、ショッピングモール、レストランなどが一体となった大規模な複合観光施設のこと。

訪日外国人数の増加とともに旅行消費額も増加。

政府は訪日外国人数を2020年に4,000万人、2030年には6,000万人にする目標を掲げています。2017年、訪日外国人旅行消費額は約4.4兆円にのぼります。また費目別に構成比を見ると、買物代(37.1%)が最も多く、次いで宿泊料金(28.2%)、飲食費(20.1%)の順となっています。

日本国内の延べ宿泊者数と宿泊施設の建設は増加傾向。

2017年、日本国内の延べ宿泊者数は全国で5億960万人泊、うち訪日外国人延べ宿泊者数は7,969万人泊(全体の15.6%)で、調査開始以来の最高値となっています。また、インバウンド需要を受けて宿泊施設の建設は増加傾向が続いており、当面進むと見られています。

分類や定義などカタチもさまざま、宿泊施設の基本。


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昨今、国内外の宿泊施設の利用拡大や宿泊者ニーズの多様化に伴い、以前にはあまり見られなかったタイプのホテルや企画性の高い施設が増えてきました。たとえば、従来のビジネスホテルよりもワンランク上の宿泊主体型ホテル。デザイン性を高め、ベッド品質やスパ等の付加価値を付けたハイクラスのホテルとして進化しています。カプセルホテルも従来のイメージから多様な変化を遂げ、個性的な演出等で女性や観光客など新たな客層を呼び込んでいます。また、客室にキッチン等を配した滞在型のアパートメントホテルもファミリー層を中心に人気を集めています。
ここでは、多様化する宿泊施設の、法律上の分類と定義を見ていきましょう。

宿泊施設における営業種別と定義。

宿泊事業を展開する場合、原則として旅館業法の営業許可を取得する必要があります。旅館業は「旅館・ホテル営業」、「簡易宿所営業」および「下宿営業」の3種に分けられます。 旅館業とは「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」のことです。宿泊施設を提供する旅館業は、1948年の旅館業法(旅館業の適正な運営を確保するための法律)の施行から現在に至るまで、改正を重ねてきました。
しかし、近年の訪日外国人の増加を受けて宿泊施設が不足、少子高齢化を背景に増加している空き家の有効活用など、旅館業法の改正だけで対応することが難しくなってきました。とくにここ数年、空室を短期で貸したい人と宿泊を希望する旅行者を仲介するインターネットビジネスの登場により、民泊が宿泊施設の新たな受け皿として広がりを見せています。そんな中、従来の特区民泊に加えて、2018年6月15日に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されました。

分類と定義

旅館業法と民泊に関する新しい法律

民泊サービスを実施するための制度。

これまで民泊は、旅館業法の許可が必要な旅館業に該当するにもかかわらず、無許可で実施されている違法民泊の数が多いことが問題視されてきました。そのため健全な民泊サービスの普及を目的に法整備が進められました。現在では民泊サービスを行う場合、3つの制度から選択することになります。実際にビジネスとして民泊サービスを考える際には、旅館業法や特区民泊が適しているといえます。

宿泊事業を行う際の選択肢とポイント


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宿泊事業を検討する際に、押さえておきたいのは、法律上の制度による条件の違いです。また、立地によって選択できない制度がありますので、まずは検討している立地の用途地域をチェックしましょう。立地条件はその後の経営を大きく左右するため、想定する宿泊者層(利用シーン・予算等)の把握やエリア特性についても念入りな調査・検討を行うことが大切です。マンション等の既存建物を宿泊施設に転用する場合は、建築基準法上の問題が発生するケースもありますが、立地や建物の特性を多角的に検討することで、新たな活用や事業の見直しが可能です。
ここでは、制度別の特徴や違いを見ていきましょう。

事業視点から見る旅館業法、国家戦略特別区域法に基づく特区民泊、住宅宿泊事業法(民泊新法)の制度比較

事業としてどうか、検討にあたってのポイント。

宿泊事業を行う場合、制度によって違いがあります。「旅館・ホテル営業」は以前までフロント設置が必要不可欠でした。そのため新築や改築の際も、コストの圧迫が懸念としてありましたが、2018年6月15日の改正旅館業法の施行により、一定要件を満たすことで、フロント設置の緩和が認められるようになりました。
「簡易宿所営業」は、基本的に利用者が客室を共用する構造設備を持つ施設なので、設計の自由度が高いオフィスビルからの改築が得策と考えられます。いずれも、営業日数の制限がないのに対して「住宅宿泊事業法(民泊新法)」は年間180日までしか営業ができず、地方自治体によっては、さらに条例で規制がかかることもあります。
「特区民泊」は2泊3日以上の宿泊期間が必要となり、1泊のみの宿泊は行えません。また、宿泊施設の経営形態はそれぞれリスクやリターンが異なりますので、利回りや節税など目的に応じた選択が大切になってきます。とくに、民泊運営会社は、オペレーションやノウハウの提供などクオリティはさまざまですので、信頼できるところを選定することが重要です。

最後に

特集では、近年メディアでも注目されている「多様化する宿泊施設」をテーマに、その背景やさまざまなニーズに対応する法整備・制度についてお話しました。
今後も増加していく国内外の宿泊需要に対して、対応できることは多々ありますが、宿泊事業を行うにあたっては、いかに多様化するニーズに応えられる独自性を持たせるかが大切です。
ここでまとめた制度比較や経営形態などは、あくまで一般論です。宿泊事業の検討については、各制度のメリットやデメリットの比較検討をはじめ、収益性や維持・管理コスト、安定性などを総合的に分析することが重要です。制度の選択や各許認可の手続きには、さまざまな法律が複雑に絡み合っていますので、地方自治体や行政書士、税理士などの専門家や信頼できる建設会社との相談を重ねながら検討されることをお勧めします。

監修
日本橋くるみ行政書士事務所(東京)
代表行政書士・宅地建物取引士
石井 くるみ

ただ建てるだけじゃない 未来へ続く施設をご提案 宿泊施設の実例紹介


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私たち松建設は、徹底したマーケットリサーチに、運用の効率化を追求したゾーニングや動線、さらには、運営オペレーションや館内システムまで、宿泊事業を総合的にご提案しています。この他にも多数の実例がございますので、ぜひ松建設へご相談ください。

01nedoco OSAKA WEST

nedoco OSAKA WEST ホテル外観/内観

周辺の民泊施設との差別化を図り、ランドマーク的な宿泊施設へ。
最寄り駅から徒歩1分の好立地。当初は賃貸マンションを提案していましたが、宿泊施設をやりたいというオーナー様のご意向を受け、マンション型簡易宿所を提案。ホテル仕様のフロント・ロビーを設けることで、周辺の民泊施設との差別化を図りました。

02ホテル Minn

ホテル Minn ホテル外観/内観

築30年超えのテナントビルが、用途変更で高稼働のホテルへ変貌。
当時は民泊が話題になり始めた頃で、簡易宿所としてのホテル経営を他に先駆けて検討。建て替えよりも既存の建物をリノベーションする方が利回りが良く、将来的に賃貸マンションへ転用できるように計画したことが、銀行の融資においてもプラスに働きました。

04ホテルプレフォート西明石

ホテルプレフォート西明石 ホテル外観/内観

データをもとに「宿泊者目線」でつくり上げ、口コミ評価も好評をキープ。
「シンプル・スタイリッシュ・健やか」をテーマにオーナー様とともにつくりあげたホテル。「宿泊者目線」をコンセプトに、周辺ホテルの状況や宿泊者のニーズを徹底的にリサーチしました。

05京都糸屋ホテル

京都糸屋ホテル ホテル外観/内観

京の街に相応しい、ホスピタリティを追求。
当時のビジネスホテルでは珍しく、トイレと洗面を別々に設計。ラウンジにライブラリーを併設するなど、顧客満足度重視のプランニングをさせていただきました。

06NEXT PROJECT

建設中ホテル外観パース

建物のある風景

100年以上の時を経てもなお愛されつづける建物たち。
そんな建物のある風景を訪ねに、ちょっとでかけてみませんか。


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国宝 迎賓館赤坂離宮

竣工:1909年(明治42年)本館構造:鉄骨補強煉瓦石造、地上2階(地下1階)住所:東京都港区元赤坂2-1-1

迎賓館赤坂離宮 外観/内観

左:約12万平方メートルという広大な敷地のなかに建つ、迎賓館赤坂離宮の本館。どこを見ても美しいと称されるだけあって、全体像も美しいシンメトリーになっている。 右上:七宝焼と天井画に包まれた「花鳥の間」は晩餐会の場に。 右中:条約の調印式や首脳会談などに使われる「彩鸞の間」 右下:砂利敷きの主庭の中央には国宝の大噴水が。

明治期の建築、美術、工芸界の総力を結集した、日本で唯一のネオ・バロック様式による宮殿建築物。それが国宝・迎賓館赤坂離宮です。建設総指揮をとったのは、日本建築界の基礎を築き上げた英国人建築家ジョサイア・コンドルの直弟子である片山東熊。当時の本格的な近代洋風建築の到達点を現代に伝える貴重な建物です。
元々、東宮御所として建設された赤坂離宮でしたが、戦後、国際社会への復帰とともに、外国の賓客が増えたことから、迎賓施設へ改修することが決まります。その文化財的価値を保存しつつ、賓客が快適かつ安全に宿泊でき、公式行事も行える迎賓館へ改修すること。この難題をクリアするために、5年4ヵ月もの歳月をかけた大規模改修が建築家 村野藤吾の手により始まり、1974年(昭和 49年)に現在の迎賓館が完成します。
各国の賓客の目を楽しませてきたその美しい姿は、2年前から通年で一般にも公開されるようになりました。ぜひ一度、日常の喧騒を忘れて、豪華絢爛な宮殿へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

設計本部 一級建築士
豊田充広

100年以上経過しても現役で使われていることが、何より素晴らしい。関東大震災や東日本大震災でも被害を受けなかった耐震設計の技術力と本物の材料を使った職人や芸術家たちの演出力が見事に調和した結果だと思います。私たちも100年、200年と愛され、使い続けられる建物を創っていきたいですね。

一般公開(有料)について
公開日程:迎賓館赤坂離宮HPでご確認の上、ご参観ください。(https://www.geihinkan.go.jp/akasaka/
アクセス:JR・東京メトロ「四ッ谷」駅下車 徒歩約7分
一般公開に関するお問い合わせ:03-5728-7788

オーナー様を陰から支える建設のプロフェッショナルたち 想いを築く仕事人 Vol.1


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松建設 東京本店 技術監査部 部長
野本 哲夫
技術監査部は、設計本部や工事本部から独立した部署として発足。
完成した建物が設計図通りになっているか、配筋検査など、
さまざまな現物検査を通して品質の最終チェックを担う、
いわば技術的コンプライアンス監視部門である。

建物の品質に妥協を許さない。現物検査で、お客様に尽くす。

工事部で28年間勤務したのち、技術監査部の東京責任者となった部長の野本。仕事の信条を尋ねると「妥協しないこと」と返ってきた。
図面との不整合や法的なミスの是正はもちろん、技術監査部では実際の検証を通して建物の機能性や安全性なども確認している。
「たとえば家族向けマンションであれば子供や高齢者にとって危険な箇所はないか、自転車の動線はスムーズかなど、安心して快適に過ごせる建物かを厳しく審査し、もし不備があれば図面通りの施工であっても改善を勧告します」。
長年、工事部にいた野本は現場の苦労を誰よりも知っている。さらに完成後のやり直しは時間とコストのロスにもなる。それでも、オーナー様にとってよりよい建物、その品質を追求することを躊躇しない。「技術監査部として建物品質を確実に確保することが、お客様の信頼につながり、結果長く愛される建物を実現できると考えている」からだ。建物品質を正しく追求するためには、常に最新の知識と情報の収集を怠らない。「直接オーナー様と接する機会がないからこそ、引き渡し後にお客様が喜んでいたと聞くと何より嬉しく励みになる」と野本はいう。
オーナー様のご満足のために、今日も粛々と検査をする。この地道で実直な作業の積み重ねが、建物の品質と信頼を守っていく。


掲載内容は2018.9月発行時点のものです。
時間経過による掲載内容の変化は保証できませんのであらかじめご了承ください。
内容についてお確かめの場合は、【0120-53-8101】へお問い合わせください。

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