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大都市圏の住宅賃料動向と今後の見通し ―賃上げは賃料上昇に追いつくのか―

大都市圏の住宅賃料は、コロナ禍を経て上昇基調を一段と強めています。同時に、日本の賃金も三年連続の高水準な賃上げによって、名実ともに増加上昇に転じました。ここでは、直近に公表された主要指標をもとに賃料の現状を整理したうえで、賃金動向との関係から今後の見通しを示します。
首都圏を中心に最高値圏で推移
アットホーム社の調査によれば、2026年5月時点で賃貸マンションの平均募集家賃は、首都圏全エリア(東京23区・東京都下・神奈川県・埼玉県・千葉県)をはじめ計11エリアが全面積帯で前年同月の水準を上回りました。
とくにシングル向けでは、東京23区が24カ月連続、大阪市が22カ月連続で2015年1月以降の最高値を更新しており、東京23区のシングル向き平均家賃は2026年2月分の調査で月額11万円を超えています。
三井住友トラスト基礎研究所とアットホーム社が公表するマンション賃料インデックス(成約ベース)でも、2026年第1四半期の東京23区の賃料は前年同期比+6.7%を記録し、14四半期連続で過去最高値を更新しました。タイプ別ではシングル+8.1%、コンパクト+5.6%、ファミリー+12.3%と、全タイプで上昇が続いています。
三大都市圏の直近動向
分譲マンションの募集賃料(東京カンテイ、㎡単価)を見ると、2026年5月の首都圏平均は前月比-0.8%の4,111円/㎡と、年初以来4,000円台の水準を維持しています。
東京23区は5,078円/㎡と、月次では一進一退ながら高水準で安定的に推移しています。近畿圏は7カ月連続のプラスとなった一方、中部圏は前月比-2.5%の2,148円/㎡と6カ月ぶりに下落しました。
2025年の年間平均では、首都圏は前年比+5.6%、なかでも東京23区は+10.0%と伸びが大幅に拡大した一方、名古屋市は+2.9%と緩やかな上昇にとどまるなど、都市圏ごとにペースの差も見られます。
賃料上昇を支える構造要因
賃料上昇の背景には、複数の構造的な要因があります。
第一に、建築資材価格や労務費の高騰による建築費の高止まりです。公共工事設計労務単価は2026年3月適用分で全国全職種の加重平均が25,834円と初めて2万5千円を超え、14年連続の上昇となりました。
第二に、新築マンション供給の減少で、2025年の首都圏の新築供給戸数は21,962戸と、1973年以降で最少を記録しました。
第三に、住宅価格の高騰です。2025年の東京23区の新築分譲マンション平均価格は前年比+21.8%の1億3,613万円に達し、購入を断念した世帯が賃貸市場に滞留しています。コロナ禍後の都心回帰の流れと相まって、賃貸需要は大都市の都心部に一段と集中しています。
賃金上昇は賃料上昇を支えられるか
こうした賃料上昇を需要面から支えているのが、賃金の増加です。2026年春季労使交渉の賃上げ率は連合の最終集計で5.01%と、三年連続で5%を超えました。毎月勤労統計調査によれば、2026年5月の名目賃金は前年同月比+3.2%と53カ月連続で増加し、実質賃金も+1.4%と5カ月連続のプラスとなっています。長く続いた実質賃金の目減りに歯止めがかかったことは、賃料の支払い能力を下支えする追い風といえます。
もっとも、両者のペースには無視できない開きがあります。名目賃金の伸びが3%前後であるのに対し、東京23区の賃料は成約ベースで+6.7%、募集ベースのシングル向けでは二桁の上昇です。賃料が賃金の二倍を超える速度で上がれば、家賃負担率は必然的に高まります。
東京23区のワンルームは若年単身者の給与の3割超を占めるとの調査もあり、支払い能力の限界が意識される水準に近づきつつあります。内閣府の分析でも、世帯年収200万円台の民営借家世帯では住居費の割合が東京都で3割を超えており、低所得層ほど負担は重くなります。
加えて、足元の実質賃金の改善はガソリン暫定税率の廃止など政策的な物価抑制に支えられた面が大きく、その持続性には不確実性が残ります。最低賃金は2025年度に全国加重平均で1,121円と過去最大の引き上げ幅となり、2026年度も相応の引き上げが議論されていますが、賃上げの裾野が中小企業までどこまで広がるかは、なお見極めが必要です。
今後の見通し
建築費の高止まりと供給減少という構造要因は当面解消しにくく、賃料は上昇基調が続く可能性が高いと考えられます。
日本銀行は2026年6月に政策金利を1.00%へ引き上げましたが、これは三年連続の高い賃上げによって賃金と物価の好循環が確認されたことが背景の1つです。金利上昇は住宅取得の判断を一段と慎重にさせ、結果として賃貸需要を厚くする方向にも働きます。
ただし、その余地は賃金次第です。賃上げが定着すれば賃料には一段の上昇余地が生まれますが、賃金が伸び悩めば、支払い能力(=アフォーダビリティ)が天井となり、賃料上昇は減速に向かうでしょう。実質賃金の再びのマイナス転換や、名目賃金の伸びの2%割れは、賃料減速のその先行シグナルとして注視すべき指標です。市場の姿も一様ではありません。
築浅・好立地の物件では賃料上昇と募集期間の短縮が進む一方、築古で駅から遠い物件は空室期間の長期化を招くなど、二極化がいっそう鮮明になると見込まれます。
なお、消費者物価指数の家賃は全国の民営家賃が+0.7%程度と実勢を大きく下回っており、実勢の参考指標としては限界があります。ただ、この指数では、市場賃料に約二年遅れて追随する傾向になるとも言われています。
今後この遅れが解消に向かえば、日銀の物価判断を通じて金融政策にも影響を及ぼす可能性があり、賃金・物価・賃料の三者の連関から目が離せません。
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