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法人の土地活用・建築

2017/12/18

将来の転換を見据えた病棟設計の重要性

病院を建築するうえで設備環境を整えることはもちろん重要ですが、目先のことばかり考えていては長期的な医院経営で成功を収めることは難しいかもしれません。なぜなら、建物は必ず老朽化するものであり、先々を見据えたうえで設計を行うことでその後の変化に対応しやすくなるからです。そのため、病院の設計時から将来的な変化や成長に応じてスムーズに院内を改編ができるよう、可変性のある病棟を検討する必要があります。

老朽化を見越した病院設計が重要

病院の機能は、大きく分けると5つの部門で構成されています。診断の機能を持つ「外来部門」、治療機能を持つ「診療部門」、看護療養機能を持つ「病棟部門」、病院全体の管理運営や職員の福利厚生面を担う「管理部門」、機能維持に必要なエネルギー・食糧・資材などの保管供給および産廃物処理などに携わる「供給部門」です。

各部門の面積配分については、公立病院や大学病院などの高機能病院では「診療部門」の比率が高く、療養主体の病院では「病棟部門」の比率が高くなります。一般病院の標準的な配分は、「外来部門」が9〜12%、「診療部門」が15〜20%、「病棟部門」が45〜55%、「管理部門」が6〜12%、「供給部門」が11〜15%。検査や治療の多様化・高度化に合わせて、中小の病院にも大型の検査機器を導入するケースが多く、広いスペースが求められるようになりました。患者数の増加にともなって、「外来部門」の拡張が必要とされることもあるでしょう。

こうした病院を取り巻く環境やニーズの変化に応じて、効率的なオペレーションを可能にする病院設計が求められますが、建物は必ず老朽化するものであり、利用者のニーズも常に変化し続けます。時代や環境の変化に柔軟に対応できる病院であるためには、10〜20年後まで見据えたプランを立てたうえで、それ以降の経営も考えた設計であることが理想です。


病院設計において成功するための計画性

病院の新築時に将来を見据えた設計にしておかないと、その後の増改築時に想定外にコストがかかる場合もあります。移転の場合も同様で、病院設計で重要なのは「フロントローディング方式で設計を行うこと」です。フロントローディングとは、フロントにあたる初期工程で負荷を背負うこと(ローディング)によって作業を前倒しで進めることを意味します。一般的に「製品開発における初期段階での品質の作り込み」を指す表現です。

この考えを病院に置き換えると、計画段階の機能やデザインに加えて将来の増改築を見据えた可変性のある設計を行ったうえで、精度の高い概算工事費を算出することが重要になるでしょう。この概算工事費の正確性が数十年後の増改築時の予算にも大きく関わってくる可能性があり、精度が低いと想定外の出費がかかります。それは将来的な病院経営を圧迫することにもつながりかねません。

さらに病院設計では、ハード面はもちろん、ソフト面においても将来に目を向ける必要があります。たとえば、高齢の患者さんが多い病院では医療療養から地域包括ケアに移行するなど、将来的な転換に幅を持たせた病棟設計をすることが重要になります。具体的には、水廻りの環境の整備や、廊下幅・病室の面積といった部分が課題になるでしょう。もちろん、将来的に改修しやすいよう配慮することも大事です。


可変性のある病棟設計が大事

刻々と変化していく医療情勢のなか、病院が常に患者さんに最適な医療を提供するには、限られたスペースで効率的に変化に対応できる「柔軟性のある建物」が必要です。医療施設の経営環境が厳しくなっている今、これまで以上に経営効率を考えた施設計画が必要とされているのも事実です。病院には、病棟再編や診療部門の機能更新など、将来の環境変化に対応できる低コストのシステム構築が求められています。

ニーズの変化や病院の成長に柔軟に対応する例として、「可変病棟」が挙げられます。二重床を有効的に配置することでレイアウトの変更や設備更新、メンテナンスの自由度を高めるのが特徴で、病院の収益を下げることなく、機能を維持したまま改修・増築工事を行うことが可能です。工事するフロアの上下階への影響を最小限に留め、休床することなく工事を実施できます。短工期・低コストで病棟改修が実現できる技術が注目され、実際に日産厚生会玉川病院などで採用されています。

社会情勢や医療を取り巻く環境は絶えず変化していくものです。当然、医療の果たすべき責任も変わっていくことでしょう。病院設計においても、時代の変化に応じて対応できるしなやかさが求められています。長期的な病院経営のためには、将来必ず起こる老朽化に備え、改良を加えやすい可変性のある病棟設計をすることが不可欠です。


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