建物・土地活用ガイド

2022/12/05

相続税対策としての不動産活用とその注意点

相続税制度改正で多くの方にとって身近な税となった相続税。
現金や不動産、株式をある程度持っている方の多くは、年を重ねるにつれ「相続税をどうするか」が悩みとなります。

相続税は、いつか相続人が支払う必要のあるいわば「国への隠れ債務」のようなものです。
とくに2015年の相続税改正で基礎控除額が減額され、相続税を支払う方が増えました。相続する方にとっては「思ってもみなかった」お金が必要となるケースもありますので、相続税の発生が見込まれる方(資産を保有する本人、並びに相続人となる予定の方)はしっかりとした事前準備が必要です。
一方で2022年4月最高裁が、収益不動産を活用した相続税評価について「いき過ぎた事例」として厳しい判決を下しました。

今回は相続税対策としての不動産活用の注意点をお伝えします。

相続税の改正について

最初に、改正から7年が経ちましたが2015年に行われた相続税の改正のポイントのまとめを確認しましょう。

相続税は、相続人が受け取る遺産総額から基礎控除を差し引いたものに、一定の計算式で計算します。改正により基礎控除の計算方法が大きく変わり、掛け率(税率)も少し変わりました。
それまで、資産総額からの基礎控除の計算式は
5000万円 + 1000万円 × 法定相続人の数 でしたが、改正後は
3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 と大きく減りました。
たとえば奥様と子供2人が法定相続人と仮定すると、以前は合計8000万円の基礎控除でした。つまり遺産総額が8000万円以下ならば相続税はかかりません。しかし、改正後の基礎控除は4800万円。都市部では、戸建て住宅や分譲マンションなどを所有しているだけでも被相続者に相続税の納税義務が発生する可能性が高くなりました。
この改正により全国で約4%程度だった課税割合が一気に8%台となり、現在も同程度の水準で推移しています。相続税が身近な税となったきっかけです。

相続税の納め方

相続税は基本的に現金で納めます。不動産等の物納もできますが、そのハードルは厳しいものになっています。
相続するものには主に現金や株式、不動産という資産があり、一般的な相続では不動産が大きな割合を占めます。不動産は現金化しにくい資産です。株式は現金化しやすいので、この範囲で相続税を納めることができればいいですが、足りなければ不動産を売却することも検討します。ですが、先祖代々の土地をただ手放すことに抵抗がある方も多いでしょう。

そのためか、不動産資産の相続税評価額を圧縮することで相続税対策しようと考える方が増えました。その方法の一つが、相続前に賃貸住宅を購入または建築し、賃貸経営することで相続税を圧縮する方法です。

相続税における不動産資産の評価(価格算定)について

当たり前ですが、現金の場合1億円は1億円と評価されます。
ですが、相続税における不動産資産の評価額(財産評価基本通達に基づく評価額)は、購入した金額や実際に売れる金額(実勢価格)とは異なります。
土地の評価は相続税路線価※を使用します。相続税の路線価額は実勢価格(公示地価)の8割程度が相場とされています。
自己利用の住宅などの建物部分は固定資産税評価額で評価されることになります。

※相続税路線価とは相続税を計算する際に使用する路線価の事です。路線価は毎年国税庁から発表されています。(https://www.rosenka.nta.go.jp/
相続した土地の路線価が公表されていない地域は、固定資産税評価額に地域ごとに決められた倍率を掛ける「倍率方式」で計算します。

賃貸住宅・賃貸併用住宅の建物と敷地の評価

賃貸用物件の場合は建物部分の固定資産税評価額に一定の率を掛けるので、自己利用の住宅よりも評価額がさらに下がります。
1棟丸々賃貸にしている物件の場合、一般的に建物の固定資産税評価額に70%を掛けます。賃貸用物件の計算式は以下ですが、借家権は全国で30%と定められており、1棟すべてを賃貸とした場合は賃貸割合が100%となるためです。
賃貸併用住宅の場合は「賃貸している面積割合×30%を100%(=1)から引いた%」を建物の評価額に掛けます。

建物の評価額(固定資産税評価額×評価倍率(1.0))×1−借家権割合(30%)×賃貸割合)

賃貸用住宅の敷地の評価は、自用地評価額のおよそ70〜80%になります。賃貸併用居宅の場合は土地の評価額から「賃貸している面積割合×30%に借地権割合をかけた割合」を引きます。

※ 2路線に面する場合は(正面路線でない路面の路線価×奥行補正率×側方影響加算率)を加算します。

小規模宅地等の特例でさらに評価が下がる

「小規模宅地等の特例」という制度があり、これに該当すればさらに評価が下がります。相続される物件が貸付事業(賃貸事業)に利用されている場合、宅地の評価を200uまで分は50%に減額する事ができます。(一部、相続開始前の期間に制限があります。)

※相続前3年以内に不動産賃貸業を開始した場合の収益物件については小規模宅地等の特例が利用できませんのでご注意下さい。

相続開始の直前における宅地等の利用区分 要件 限度面積 減額される割合
被相続人等の事業の用に
供されていた宅地等
貸付事業以外の事業用の宅地等 特定事業用宅地等
に該当する宅地等
400u 80%
貸付事業用
の宅地等
一定の法人に貸し付けられ、その法人の
事業(貸付事業を除きます。)用の宅地等
特定同族会社事業用宅地等
に該当する宅地等
400u 80%
貸付事業用宅地等
に該当する宅地等
200u 50%
一定の法人に貸し付けられ、その法人の
貸付事業用の宅地等
貸付事業用宅地等
に該当する宅地等
200u 50%
被相続人等の貸付事業用の宅地等 貸付事業用宅地等
に該当する宅地等
200u 50%
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 特定居住用宅地等
に該当する宅地等
330u 80%

国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」より

借入を相続財産から控除できる

多くの場合、賃貸住宅建築は借入(=負債)で行われます。この負債は相続税の計算では資産からマイナス(債務控除)されます。
また、賃貸経営によって土地・建物にかかる固定資産税・都市計画税の軽減が受けられたりします。
※固定資産税・都市計画税・所得税の軽減について
https://www.takamatsu-const.co.jp/kojin/tochikatsuyo/mansion/merit/

このような理由から賃貸住宅・賃貸マンションを建築し賃貸経営することが相続税対策になると言われています。

※以上にあげた計算例は一例です。賃貸の割合や状況、整形地かそうでないかなどでも相続税額が変わります。ご自身の詳しい相続税について知りたい場合は税理士などの専門家に相談しましょう。

松建設では定期的に「税務相談会」「法務相談会」を開催しています!
相続税や土地活用に強い税理士・弁護士へご相談いただけます。
※当社お客様向けの相談会です。ご参加を希望の場合は営業担当者へご連絡ください。
当社へのご相談実績がない場合はぜひ一度ご相談頂き、ご参加ください。

不動産による資産圧縮もやりすぎには指摘が!

冒頭で少し触れましたが、2022年、行き過ぎた相続税対策に裁判所のメスが入りました。

この事例では、亡くなる3年前に94歳の高齢者が多額のローンを組み高額の収益不動産を複数購入。亡くなった後、マンションを相続した遺族が税理士の見解に基づき相続税を0円と申告しました。税務署はこの評価が著しく不当であるとし3億円超の追徴課税処分としましたが、遺族がこの追徴課税を無効と訴え裁判に発展しました。
その結果2022年4月に最高裁で遺族側の敗訴となり、「追徴課税の基準があいまい」だと税理士の評価も分かれました。
裁判の概要では『超高齢者が借入で購入(租税回避と判断された)』『約3年(1棟は3年に満たなかった)で相続』『路線価方式の評価額と鑑定評価額が大きく違った』などの点が問題となったようでした。

最後に

前述の裁判事例もそうですが、相続税対策はより慎重に行う必要があります。
平成30年の税制改正では、それまでは相続開始時点に不動産賃貸業を行っていれば受けられた小規模宅地等の特例が、相続開始前3年以内に新しく購入・建築された宅地には原則として利用出来なくなりました。このことからも相続発生3年以前の購入・建築が目安かもしれません。

早め早めの相続税対策評価額の慎重な申告、そして合理性のある不動産購入・建築が、今後の相続税対策のポイントとなりそうです。

松建設は創業105年(2022年11月現在)。
企業様からの事業用建物の他、賃貸マンションを活用した相続税圧縮のご相談、建築も数多く承ってきました。
ご不安やお悩みなど、気軽にご相談下さい!
ご相談フォーム  : https://www.takamatsu-const.co.jp/contact/
お電話でのご相談: 0120-53-8101(フリーダイヤル)

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

疑問に思うこと、お困りごとなど、まずはお気軽にご相談ください

  • ご相談・お問合わせ
  • カタログ請求

建築・土地活用ガイド一覧へ