建物・土地活用ガイド

2021/10/12

回復鮮明な住宅地、主要都市でも差がついた商業地 21年基準地価の分析

長く発出されていた緊急事態宣言、まん延防止等重点処置が9月末を持って解除されました。ワクチン接種は急速に進んでいるものの、しかし、いまだ人流は制限され、かつてのような日常に戻るまでには先は長そうです。(執筆:9月30日)
このような長引く新型コロナウイルスの影響は、地価にどのような影響を与えているのでしょうか?今回は、9月21日に発表された2021年分の基準地価を分析してみます。
(本文、図表ともデータは全て国土交通省「令和3年都道府県地価調査」を元にしています。)

基準地価は、都道府県が主体となって調査し、国土交通省が集約し発表しています。そのため、都道府県地価ともよばれます。
今年度は、コロナショック以降2回目の都道府県地価調査(昨年分は2020年9月)でした。昨年は、しばらく続いた地価上昇に急ブレーキがかかり、マイナスになっていましたが、今年はだいぶ回復しているのか?それともさらに悪化しているのか?と注目が集まりました。

21年基準地価の概要

21年分の基準地価は、全用途(住宅・商業・工業)全国平均が前年比−0.4%、2年連続のマイナスとなりました。住宅地はマイナス0.5%となり、昨年はマイナス0.7%でしたので、下落幅が小さくなりました。一方で、商業地ではマイナス0.5%となり昨年がマイナス0.3%でしたので、下落幅は大きくなりました。
全体的な傾向として、住宅地は新型コロナウイルスの影響から概ね回復、逆に商業地は悪化しているという結果となりました。緊急事態宣言・まん延防止等重点処置で、繁華街などでの飲食店・ホテル等が大きな影響を受け、それが地価にも反映された格好となりました。

基準地価について

ここで基準地価について簡単に説明しておきます。
3月に発表される公示地価と目的や用途はほぼ同じですが、2つの大きな違いがあります。
調査主体が公示地価は国土交通省で基準地価は都道府県です。また、価格時点は公示地価が1月1日で基準地価は7月1日となっており、価格時点を比較すると、中間点という位置づけになります。
調査地点数は公示地価が約26000、基準地価は約21000地点となっており、うち1625地点(うち住宅地1120地点、商業地505地点)が同一地点です。

三大都市圏の概要

三大都市圏の平均では、全用途平均は+0.1(前年は+0.0)、住宅地は+0.0%(前年は−0.3%)、商業地はプラス0.1%(前年は+0.7%)となりました。しかし、3大都市圏をそれぞれ見てみると少し違いがありました。

住宅地においては、東京圏・名古屋圏では前年よりもプラスとなりましたが、大阪圏では0.3%のマイナスとなりました。しかし、大阪圏のマイナス幅は減少しています。昨年は、どの圏もマイナスでしたので、回復していると言えます。
一方、商業地では、名古屋圏が−1.1%から+1.0%に回復したものの、東京圏ではプラス幅が1%から0.1%に減少、大阪圏では前年は+1.2%から−0.6%となりました。
新型コロナウイルスの影響が、住宅地では一時的なもので、すでに回復状況にあり、商業地は国内外観光客の動きが依然と厳しく、特にインバウンド観光客の多かった関西エリアでその影響が大きく出たものと思われます。

住宅地の状況

ここからは、住宅地にフォーカスして見てみましょう。

東京圏では+0.1%(前年は−0.2%)、大阪圏−0.3%(前年は−0.4%)、名古屋圏+0.3%(前年は−0.7%)となっています。大阪圏だけが依然マイナスとなりました。
地方圏全体では、−0.7%(前年は−0.9%)、地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると、+4.2%(前年は+3.6%)となりました。

直近5年の4大都市(東京都・大阪府・愛知県・福岡県)にフォーカスしてみると、図1のようになります。全国でみればマイナスが続いているものの、大阪を除けば、住宅地は2020年の落ち込みは一時的なものだったことが分かります。

商業地の状況

次に、商業地について見てみます。
東京圏では+0.1%(前年は+1.0%)、大阪圏は−0.6%(前年は+1.2%)、名古屋圏は+1.0%(前年は−1.1%)となりました。
名古屋圏は大きく改善しましたが、大阪圏では8年ぶりにマイナスになりました。
国内外の観光客が減り、ホテル需要が旺盛で、飲食店などが密集する地域などでは需要減退、先行き不透明感が地価に色濃く出た格好となりました。

図2は、直近5年の4大都市(東京都・大阪府・愛知県・福岡県)の商業地地価の変動率を示しています。図をみると4大都市ではかなりの違いが出ています。愛知県と福岡県がプラス、東京と大阪はマイナスとなりました。商業地の変動率上位の地点を見てみると、上位10位以内に福岡県下は、なんと8地点もあり福岡県の商業地が活況であることがうかがえます。

2022年基準地価の予測

2022年9月に発表される基準地価は、住宅地においては今年に比べて上昇する可能性がかなり高いと考えます。
また商業地においては、新型コロナウイルスの影響が徐々に収まり、また薬も登場する見込みのようですから、人の動きが戻ってくるものと思われます。商業地においても、今年に比べて改善しているものと予想します。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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