
2025年12月18日と19日に行われた金融政策決定会合で、日銀は政策金利を0.25%上げ0.75%程度(誘導目標)とすることを決定しました(19日発表)。政策金利が0.75%となるのは1995年9月以来、実に30年ぶりのこととなります。
物価上昇が続いていることに加えて、最近は円安傾向が続いていることから輸入物価が上昇し、結果物価上昇に拍車がかかることを警戒しての利上げと考えられます。政策金利の上昇はプラスの面とマイナスの面があります。
今回は政策金利の上昇による不動産市況の影響について考えてみます。
1%の政策金利も見えてきた
今回の政策金利の利上げは2025年1月以来11か月ぶりとなります。このところの政策金利の上昇を振り返ると以下のような変遷があります。
・2024年3月にマイナス金利が解除されて政策金利(の誘導目標)が0%へ
・2024年7月末には政策金利が0.25%(の誘導目標)へ
・2025年1月には政策金利が0.5%(の誘導目標)へ
・2025年12月12月に0.75%(の誘導目標)となる
2024年は年2回の利上げ(0.25%ずつ)が実施され、2025年も年2回の利上げ(0.25%ずつ)と政策金利は物価上昇を受ける形でジワジワと上昇しており、「金利のある世界」が一段と進むことになります。
まだ政策金利は低い?
直近の10月分(2025年11月21日総務省公表)の消費者物価指数を見ても、コアCPI(消費者物価指数)では前年同月比+3.0%の上昇となっており3%程度の物価上昇が続いています。この水準が続けば2026年の前半に利上げが行われ、政策金利1%になる可能性も見えてきました。政策金利が1%になれば、(当時は公定歩合でしたが)1995年4月以来となります。
この先政策金利は1.5%までは上がる可能性が高いとの見方が増えてきました。
現在の物価上昇幅(前述のように11月は3.0%の上昇)は、米国の物価上昇率(11月分は2.7%上昇)よりも高くなっています。しかし政策金利を見ると米国は3.5%、日本は0.75%と大きな差があります。
ちなみにEU(欧州連合)は2%で、主要国の中でも日本の政策金利は突出して低い水準であることに変わりはありません。
また理論上の政策金利「=自然利子率+予想インフレ率」と比べても、かなり低くなっています。ここでいう自然利子率とは、経済・物価に対して引締め的でも緩和的でもない景気に中立的な実質金利のことです。自然利子率については日銀からの発表はありませんでしたが、仮に0%としても予想インフレ率は2025年10月時点では2.7%(2025年10月の日銀展望レポート)ですから、少なくとも2.7%以上になります。こう考えれば現状はまだ「金融緩和状態」にあることが分かります。
政策金利の上昇のプラス面とマイナス面
政策金利が上昇することでのプラス面は、何といっても預金金利が上昇することでしょう。かつてほぼ0%だった普通預金金利ですが、今では0.1%〜0.2%、中には0.5%程度の金融機関もあります。預金金利は来月以降も上昇するものと思われます。
一方マイナス面ですが、これは借入を行っている方々の利払いが増えることです。
特に住宅ローンでは、ここ15年くらいは多くの方が変動金利で借りていますが、変動金利型のローンでは政策金利が上昇すれば借入金利が上がります。月々の支払い総額については上昇に制限がかかっているタイプの住宅ローンが多いようですが、その場合利息と元金の割合のうち元金分が減ることとなり、当然ながら総支払額は増えます。
為替相場の動向
今回の政策金利の上昇は正午過ぎに速報が出ました。この直後に一時的にわずかに円高に振れましたが、その後はやや円安が進んでいます。
2025年12月18日は155円台半ばでしたが、19日の16時時点では156円ちょうど付近で推移していました。
2025年12月のアメリカFOMC(連邦公開市場委員会)では利下げとなり、今回の日本の金融政策決定会合では利上げでしたので、円高に振れることも考えられます。しかし11月末くらいから今回の利上げは予想されていましたので、「すでに織り込み済み」ということで、為替相場はあまり動かなかったのでしょう。
実質金利は低下している
借り入れを行う際の金利は名目金利と呼ばれますが、今回の利上げにより名目金利は上昇するでしょう。しかし「実質金利」で見ると依然としてかなり低い状況にあります。 実質金利とは名目金利から物価変動の影響(予想インフレ率)を差し引いた金利を指します。
例えば直近において1.8%で借入を行ったとすれば、1.8%−2.7%=−0.9%となり、実質金利は「マイナス金利」となります。
不動産市況への影響
今回の利上げで為替相場は多少円高に振れると予想しましたが、今のところその気配はありません。
この状態が続けば輸入物価は上昇します。これは建築資材の高騰に繋がります。従って建築費上昇は今後も避けられないでしょう。
また19日には長期国債金利が2%を超えました。長期国債金利が2%を超えるのは2026年ぶりで、こちらも大きなインパクトがあります。長期国債金利は不動産投資におけるベース金利となるため、期待利回りが上昇する可能性があります。
もしそうなれば収益不動産の価格においてネガティブ要因となります。しかしここ数年は賃料も上昇しているため、価格上昇を相殺する形になる可能性もあります。ただし今後賃料がさらなる大幅な上昇を見せる可能性も否定できず、予断を許さない状況と言えるでしょう。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
