建物・土地活用ガイド

2025/12/05

最新 キャップレートの分析

長期国債金利の上昇が顕著となってきました。特に2025年11月後半からは1.8%を超える水準が続き、2%が見える水準となってきました。
投資家の多くは長期国債金利を不動産投資におけるベース金利として見ることが多く、そのため長期国債金利の上昇は期待利回り(=キャップレート)の押し上げにつながります。

長期国債金利の上昇により不動産投資市場の行方が見えにくくなっている現在、大きなお金を動かす投資家はどう考えているのでしょうか?

今回は2025年11月27日に公表された「第53回不動産投資家調査(2025年10月現在)」の結果から、特に賃貸住宅とオフィスの期待利回りの動向を考察します。

引き続き史上最低水準が続く賃貸住宅のキャップレート

一般財団法人 日本不動産研究所が2025年11月27日に公表した「第53回不動産投資家調査」(調査時点:2025年10月)によると、賃貸住宅の投資家の期待利回り(キャップレート)は、全国主要都市で引き続き史上最低水準値が続いています。

ワンルームタイプは調査結果のある10の主要都市全てで前回調査(2025年5月公表:4月調査)と同じ値で、1999年の調査以来、最低水準となっています。 賃貸住宅のキャップレートでは全国で最も低い値とされる東京城南エリアのワンルームタイプでは3.7%で、前回調査と同じ値(その前3回は3.8%)でした。

さらに「期待する利回り」(=キャップレート)よりも実際の「取引」利回りは低くなっており、東京城南(想定エリアは目黒区・世田谷区・渋谷駅や恵比寿駅まで15分以内の鉄道沿線)での取引利回りは3.4%が平均値となっています(こちらは前回・前々回調査と同値)。
また東京城東地区では期待利回りは3.9%(5回連続同じ値)、実際の取引利回りは3.5%(前回から−0.1%)となっており、こちらも史上最低値が続いています。

主要10都市のワンルームタイプの期待利回りを見ると、東京都区部(城南・城東)は前述のとおり3%台の後半、ついで横浜市と大阪市が4.3%(ともに前回・前々回と同値)、名古屋市と福岡市が4.5%(ともに前回・前々回と同値)、京都市4.6%(前回・前々回と同値)、神戸市4.7%(前回・前々回と同値)、そして札幌市・仙台市・広島市が5.0%(全て前回・前々回と同値)となっています。

こうして見ると期待利回りは最低水準が続いていますが、「もうこれ以上下がらない」という状況にあるようです。

■賃貸住宅の期待利回り(キャップレート)の推移

(一般財団法人 日本不動産研究所「不動産投資家調査」より作成)

ファミリータイプ物件のキャップレート

次にファミリータイプ物件に目を向けると、ワンルームタイプと同様に全国主要都市で史上最低値が続いていますが、ワンルームタイプと同じく10の調査都市全てで、前回と同じ値となっています。
東京城南エリアでは3.8%(前回・前々回と同値)、前回は横浜市・京都市・神戸市・広島市で、前々回より−0.1ポイント下がりましたが、今回は全て横ばいとなりました。 ファミリータイプにおいても「いまが最低水準」という感じが見えてきました。

不動産投資のリスクプレミアムの低下

冒頭に述べたように長期国債金利の上昇が顕著となっています。
下記グラフを見てもはっきりとその傾向が分かります。

■長期国債(10年物)金利の推移

(財務省「国債金利情報」より作成)

長期国債金利を不動産投資のベース金利と見ると、キャップレートからベース金利を引いたものは不動産投資のリスクプレミアムということになります。
賃貸住宅投資のキャップレートは前述のとおり概ね1年以上「横ばい」ですが、上記グラフのようにこの間に長期国債金利は1%程度上昇しています。つまり投資家は動産投資へのリスクが減っていると考えているということになります。

利回りで表現されるリスクプレミアムの低下ですが、その要因としては「物件価格の上昇期待」もしくは「収益性の向上≒賃料の上昇」が考えられます。
これらは「or」でなく「and」と考えるのがいいと思いますが、昨今の状況を鑑みれば「賃料が上昇していること」が大きな要因と考えるのが妥当でしょう。

市況感はピークと見ても、不動産投資は積極姿勢

この調査の中では「投資スタンス」についても尋ねています。「今後1年間の不動産投資に対する考え方」の質問項目で、「新規投資を積極的に行う」と回答した方は94%にのぼり(前回と同じ値)、コロナ禍以降の2021年以降はずっと同水準の積極的投資スタンスという結果になっています。

またマーケットサイクルの調査では「いまはピーク期」との回答が東京・大阪とも最も多く、この「いまがピーク」が最も多い状況は1年以上続いています。
「いまがピーク」と考えても「積極的に投資する」という状況が、かなり長く続いているということでしょう。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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