
不動産投資や建築投資において、大きな影響を与える要素の一つが金利です。
10年以上続く不動産・建築の好景気の背景に「金融緩和」があることは誰もが知る事実であり、そのため金利の動向には注目が集まります。
今回は金利の動向と見通しを変動金利と固定金利に分けて解説します。
(2025年11月4日現在のデータを元に解説)
2025年10月の日銀金融政策決定会合
新政権となり初めての日銀金融政策決定会合が2025年10月末に開催されました。
円安が進む中での政策金利に注目が集まりましたが、結果は据え置きとなりました。
一方、米国の金融政策決定会合にあたるFOMC(連邦公開市場委員会)は2025年10月28日〜29日に開催され、FRB(連邦準備制度理事会)は0.25ポイントの利下げを決定しました。 これを受けて連休明けの11月4日朝のドル円相場は154円台となっており、円安傾向が続いています。9月半ばから7円の上昇(約4.5%)となり、このあとは輸入品のインフレが顕著になると思われます。
12月の金融政策決定会合では政策金利が上がる可能性もありますが、新総裁の経済政策は「金融緩和を推進」ということのようですので、据え置きが続く可能性も大いにあります。
この流れが続くとすれば、円安に伴う輸入品価格の上昇が物価上昇(インフレ)の傾向を引き起こすものと思われます。
10月会合後に公表された「展望レポート」では、2025年のコアCPIの上昇率は2.7%、2026年は1.8%と7月公表のレポートと同値でしたが、傾向とすれば上振れの可能性が高くなると思われます。
いずれにしても、インフレが続く中での金利は横ばい(もしくは僅かの上昇)であれば、実質金利は異次元の金融緩和が続くことになり、株価が示しているように日本経済は好調、不動産市況・建築市況は活況が続くものと思われます。
超低水準が続く変動金利の動向と見通し
企業が建築のために融資を受ける場合や不動産取得のために融資を受ける場合、地主の方が賃貸住宅を建てるための融資を受ける場合のここ10年くらいを見ると、圧倒的多数が変動金利を選択しています。
変動金利はその名の通り、融資期間中の金利が「変動する」融資です。
変動金利は、政策金利の影響を受ける短期プライムレートに連動して利率が決まります。
政策金利は2025年1月に0.5%になり(それまでより+0.25%)、11月現在はそのままとなっています。
変動金利の利率の見直しは新規借り入れの場合、その時の利率が適用されますが、すでに借りている融資においては、(一部例外もありますが)基本的に4月・10月の年2回行われます。
現在の変動金利は0.6%前後となっていますので、政策金利とのスプレッド(金利差)は0.1%前後ですから、かなり借りやすい(金利負担が感じられない)水準です。
政策金利は「物価上昇を見れば、いつ(金利が)上がってもおかしくない」という状況ですが、12月の日銀金融政策決定会合で上がるかどうかの見通しは、専門家の間でも意見が分かれています。ただ年度内には1回は上がるものと思われます。
長期間の融資を受ける個人・企業は、「いったん変動金利で借りておき、その後様子を見て対応する」という方が多いでしょう。
固定金利と長期国債金利
一方の固定金利は、5年や10年といった期間を定めた固定金利と全期間固定金利の2パターンがあります。
住宅ローンのフラット35や住宅金融支援機構の賃貸住宅建築融資などは全期間固定金利になります(各種条件などあり)。
固定金利は長期国債金利の影響を受けます。
長期国債金利は10年物や30年物などがありますが、一般的には10年物の動きに注目するとよいでしょう。
長期国債金利は金利を低く抑える政策が長期間続いていたため、超低金利(ときにマイナス金利)が続いていました。しかし日銀は、2024年7月末の金融政策決定会合で「長期国債の買い入れ額を減額」すると決定した後、上昇が続いています。
2022年中はほぼ0%、2023年夏頃は0.4%程度で推移していましたが、11月初旬には1.6%超の水準となっています。この先の見通しは読みにくいものの、1.8%程度になる可能性も見えてきました
固定金利のスプレッドは史上最低水準
長期国債金利が2%近くなってくれば、融資における固定金利への影響だけでなく、不動産投資への影響も出てくるものと思われますが、ここでは融資の際の固定金利の動向を解説します。
大手金融機関の金利(店頭金利ではなく、実際に借りる際の優遇金利)を見ると、2%台の前半〜半ば程度です。 住宅金融支援機構の賃貸住宅建築融資(全期間固定:省エネなど条件あり)は2%前後で推移していますが、昨今の長期国債金利の上昇を見ると、スプレッド(金利差)は史上最低水準と言えるものとなっています。
■長期国債(10年)と賃貸住宅融資(固定金利:35年)比較

(財務省・住宅金融支援機構より作成)
グラフの緑色の線は長期国債金利(10年)で、オレンジ色の線は賃貸住宅建築融資(35年、全期間固定)の推移です。そして点線は、これらの差を取ったもの(スプレッド)です。
これを見ると、長期国債金利上昇している中でも、固定金利はほとんど動いていないことが分かります。そのため、点線の値はどんどん小さくなっています。つまり固定金利での融資は「お得感」が出ていると言えるでしょう。
先に述べたように長期国債金利は上昇傾向にありますし、固定金利も上昇する可能性が高い状況にあることは間違いありませんので、「お得なうちに」と考えてもいいでしょう。
吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/
