建物・土地活用ガイド

2025/07/04

最新の金利動向と今後の見通し

2025年春以降は金利の上昇に一服感がみられますが、しかしながら物価の上昇は続いており、長期的には金利は上昇傾向にあります。

日銀も「動向を見ながら引き上げ可能性を探る」ということですので、注視しておきたいところです。

今回は、いくつかの金利を取り上げて現状と今後の見通しについて解説します。

最新の金利動向

最初に、2025年6月半ば現在の各種金利について見ておきましょう。

全ての金利のベースとなる政策金利は、6月の日銀金融政策決定会合でも据え置きとなり、2025年1月末以降も0.5%のままです。

次に長期国債金利は、3月ごろまでは上昇傾向にあり一時1.6%を超えましたが、その後4月以降は下落して1.4%程度となっています。

住宅ローンや建築融資における変動金利は、政策金利→短期プライムレートの影響を受けますが2025年に入って大きな動きはなく、基準金利(優遇前)では2.625%程度となっています(優遇後の実際は、0.6%〜0.8%程度)。

固定金利は、住宅金融支援機構のフラット35では一時2%手前まで行きましたが、長期国債金利に連動する形で4月ごろから下落しており1.8%台となっています。
また、賃貸住宅建築融資(アパートローン)は、金融機関により金利のバラつきがありますが、低金利水準で推移しています。

■各種金利の推移

基準割引率・プライムレート:日本銀行、都市銀行
住宅ローン:各金融機関
長期国債:財務省
フラット35:各金融機関
賃貸住宅融資(35年):住宅金融支援機構より作成

全体的な状況は、2024年中はジワジワと上がりましたが、2025年春ごろから少し下落して落ち着いているという状況です。

政策金利のカギを握る指標

政策金利は、すべての金利のベースとなる日銀により定められる金利のことで、様々な状況を鑑みて判断されます。

日銀総裁のこれまでの発言から、消費者物価指数(コアCPI)、需給バランス(需給ギャップなど)といった物価動向のベーシックな指標と、実質賃金や有効求人倍率(あるいは失業率)などの労務系の指標が基準となるようです。

これらの指標は、日銀の役割である「物価の安定」と「国民経済の健全な発展」を表したものですから当然と言えます。

物価の上昇と需給バランス

執筆時最新のコアCPIは前年同期比プラス3.7%と高い伸びとなっています。

2024年年間は2%台後半でしたので、それよりも大きな物価上昇となっています。
夏以降は3%を下回ると予想されていますが、それでも「安定的に2%程度の物価上昇を目指す」としている日銀の目標からは上振れしています。

一方で需給バランスですが、日銀が四半期ごとに公表する「需給ギャップ」をみれば、最新の2024年10-12月期(2025年4月公表)では−0.27%となっており、2020年4-6月期以降19四半期連続でマイナスとなっており、需要拡大に伴うものではなくコストプッシュ型の物価上昇が続いていることがわかります。

実質賃金と有効求人倍率

また、実質賃金は厚生労働省が公表する毎月勤労統計で分かります。

最新の4月分(6月5日公表)では、実質賃金は前年同期比−1.8%と4か月連続マイナスとなりました。同じ月の現金給与総額は+2.3%となっていますので、実際に支給される給与上昇以上の物価上昇が続いていることがわかります。

ちなみに、この賃金は「手取り」ではなく「支給額」ですので、社会保険料等の上昇が続いている昨今では、支給額が上昇していても手取りはそれほど増えず、そして物価上昇が続いていますので、サラリーマンの方々は給与増の感覚はあまりないものと思われます。

次に有効求人倍率は、最新の4月分(厚生労働省:5月30日公表)では1.26倍となり、過去1年間大きな変化はなく概ね横ばいとなっています。

完全失業率は、最新の4月分(総務省:5月30日公表)では2.5%となり、こちらも過去1年間大きな変化はなく、ほぼ横ばいとなっています。

政策金利はしばらく上げにくい?

こうしてみれば、物価が上がっているが需要は旺盛ではなく、手取り賃金が物価上昇分ほど増えていない。
また失業率も増えておらず、マッチングの問題はあれども職に困ることはない、というのが最新の各指標からうかがえることです。

物価上昇が続いているため、金利上昇の可能性はありますが需要が伸びていないことや実質賃金が増えていないことを考えると、金利上昇は年内にあるとしても1回(=+0.25%)程度と思われます。

向こう1年間でも+0.5%で政策金利1%というのが、現在の状況から予測されることでしょう。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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