
キャップレート(投資家の期待利回り)の動向は、投資家(個人・法人)が収益不動産を購入・建築する際の利回りにおけるバロメーターとなり注目されます。
不動産は個別性が強いため、収益不動産においても利回りは個々に異なりますが、推移をみることで市況を把握することができます。
今回は、賃貸住宅、物流施設、宿泊特化型ホテルの3つのアセットクラスにおける最新のキャップレートの状況を解説します。
史上最低水準が続くワンルームタイプのキャップレート
5月28日に一般財団法人 日本不動産研究所から公表された「第52回不動産投資家調査」(調査:2025年4月)によれば、賃貸住宅の投資家の「期待利回り(キャップレート)」は、全国主要都市で引き続き史上最低水準値が続いています。
賃貸住宅のキャップレートでは、全国で最も低い値とされる東京城南エリアのワンルームタイプでは3.7%となりました。前回調査(2024年10月調査、11月公表)を含め前3回は3.8%でしたが、4期(2年)ぶりに最低値が更新されました。
さらに、「期待する利回り」(=キャップレート)よりも実際の「取引利回り」は低くなっており、東京城南エリア(想定エリアは目黒区・世田谷区、渋谷駅や恵比寿駅まで15分以内の鉄道沿線)での「取引利回り」は3.4%が平均値となっています(こちらは前回調査と同値)。
また、東京城東地区では「期待利回り」は3.9%(4回連続同じ値)、実際の「取引利回り」は3.6%(同)となっており、こちらも史上最低値が続いています。
主要10都市のワンルームタイプの「期待利回り」をみれば、東京都区部(城南・城東)は前述のとおり3%台の後半、ついで横浜市と大阪市が4.3%(ともに前回と同値)、名古屋市と福岡市が4.5%(ともに前回と同値)、京都市4.6%(前回と同値)、神戸市4.7%(前回と同値)、そして札幌市・仙台市・広島市が5.0%(すべて前回と同値)となっています。
■賃貸住宅の期待利回り(CAPレート)の推移
((一財)日本不動産研究所「不動産投資家調査」より作成)
ファミリータイプ物件のキャップレート
次にファミリータイプ物件に目を向けると、ワンルームタイプと同様に全国主要都市で史上最低値が続いていますが、その中でも特に住宅が多い都市や地方都市で「期待利回り」が低下しています。
東京城南エリアでは3.8%(前回と同値)ですが、横浜市は4.3%で前回より−0.1ポイント、京都市では4.6%で前回より−0.1ポイント、神戸市では4.7%で前回より−0.1ポイント、広島市では5.1%で前回より−0.1ポイントとなっています。
このキャップレート調査は1棟物件が対象ですが(ワンルームタイプもファミリータイプも)、区分マンション投資においても坪単価がかなり高くなっているワンルームタイプに比べて、やや割安感のあるファミリーに人気のある郊外人気エリアの物件へは、積極的な投資が行われているようです。
物流施設のキャップレート
物流不動産とよばれる賃貸用物流施設はマルチテナント型(複数テナント)とシングルテナント型(単独=1社テナント)に分かれますが、物流不動産の大型化が進む現在の主流はマルチテナント型です。
また、物流施設は港湾施設が近い湾岸部物件と、郊外高速道路に隣接する内陸型に分かれます。
マルチテナント型の物流施設のキャップレートでは、湾岸部では、東京江東区エリア・名古屋港近く、大阪港近く、博多港近くの4エリアでの調査結果があります。
最も低い東京江東区では3.8%、名古屋では4.4%、大阪では4.2%、福岡(博多)では4.5%といずれも前回と同値でしたが、史上最低値が続いています。
内陸部物件では、東京(多摩地区)が4.0%、千葉成田地区が4.5%、名古屋市北部地区が4.5%、東大阪周辺が4.3%、福岡IC周辺では4.5%と、内陸部物件でも前回と同値で史上最低値が続いています。
宿泊特化型ホテルのキャップレート
宿泊特化型ホテル(=いわゆるビジネスホテル)のキャップレートは、訪日外国人観光客増加に伴うシティホテル価格の高騰の中で、国内出張需要が堅調なことから、稼働率、客室単価とも上昇しています。
キャップレートの推移をみれば、コロナ禍でやや上昇しましたがすでにコロナ禍前(2019年)よりも低い値となっています。
最もキャップレートが低いのは東京で4.2%(前回と同値)で、札幌・仙台・名古屋では横ばいとなっていますが、国内外からの観光需要が多い京都・大阪・福岡・那覇では、半年前から0.1%下がりました。
東京の次に低いのは、京都と大阪で4.7%、そして福岡が4.9%となっています。以下、札幌・名古屋が5.0%、那覇5.1%、仙台5.3%となっています。
特にインバウンド観光客は2025年の年間で5000万人近い数字となりそうですので、今回下がった4つの地域では、もう少し積極的な投資が行われることが予想されます。
不動産投資は積極姿勢が続く
この調査の中にある「今後1年間の不動産投資に対する考え方」の質問項目で、「新規投資を積極的に行う」と回答した方は94%にのぼり(前回と同じ値)、不動産投資家の非常に積極的な投資姿勢が伺えます。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/