
どんどん便利になる賃貸住宅
住宅における付帯設備とは、建物本体と分けて付属する給排水・衛生・換気・冷暖房・電気配線・照明などの建築設備のことです。
「賃貸住宅における付帯設備」の場合は、賃貸物件に最初から設置されており賃料に含まれる設備のことを指します。
具体的には、エアコンやガスコンロ、水回り設備(温水洗浄便座など)などで「現在の一般的な生活では必要不可欠と思えるもの」などですが、賃貸住宅における競争優位性のために、「あれば便利」というものが付帯していることもあります。
これら付帯設備に該当するモノの修繕や交換は、基本的にはオーナーが負担することになっています(賃貸借契約書に特約等があれば別です)。
先に述べた付帯設備の例は、賃貸住宅では「当たり前」となっている設備で、これらがない物件(借主が設置する物件)は現在では入居者を募ることが極めて困難でしょう。
一方で「これがあれば入居者がつきやすい」「賃料UPが狙いやすい」といった付帯設備もあります。
いまや必須の付帯設備
エアコンやガスコンロなど、はるか昔に賃貸住宅の必須付帯設備となったものもありますが、いまの若年層なら「昔はエアコンなし物件があったの?」という感覚でしょう。
過去10〜20年くらいを振り返ると、昨今では「当たり前」となった賃貸住宅の付帯設備としては、温水洗浄便座やインターネット設備、宅配ボックスあたりが該当するのではないでしょうか。
またセキュリティ関連設備は、都市部のRC物件においてはオートロックやインターホンは当たり前の設備となってきました。
今後「当たり前化」する付帯設備は?
賃貸住宅に住む単独世帯が増えている現代ですが、「これから必須の賃貸住宅の付帯設備」を考える時には「昨今の生活スタイルを考えると必須となりつつあるもの」と「分譲マンションでは当たり前のもの」がカギになると思われます。
インターネット設備や宅配ボックスなどは前者に該当し、セキュリティ関連は後者に該当します。
現在の賃貸住宅需要の中心は単独世帯やカップル世帯であることを考えれば、25〜50u程度の広さがボリュームゾーンとなります。
この広さ・間取りには、単身者やカップル世帯が生活するうえで必要な付帯整備はすでにあり、室内での今後「当たり前化」すると思われる付帯設備はあまり考えにくいと思われます。
しかし都市部を中心に賃料の上昇が続き、またマンション建築費が上昇しているなかで、1戸当たりの面積は狭くなっており、狭くなっているのは収納スペースという状況です。
そこで収納スペースの外出し化が徐々に増えています。
宅配型のトランクルームを1棟の単位で契約し、そこを入居者が利用するというものです。
入居者が付帯割合に応じて払うタイプや賃料に含まれているタイプなど利用費用は様々ですが、都市部における賃貸住宅でこのような「宅配型トランクルーム」を備えることで、建物スペースを使うことなく収納スペースを確保することができます。
また「生活スタイル」起因の必須付帯設備として「分譲マンションで増えつつあるもの」は、エントランスや各扉に適用される「顔認証システム」が有力でしょう。
増える、高齢単身者の賃貸住宅暮らし
今後賃貸住宅として急増するのが、未婚高齢単身者の賃貸住宅需要です。
生涯未婚率(50歳時点未婚率)が男女とも急上昇しており、2020年には男性約28%、女性約18%(国立社会保障・人口問題研究所データ)となっています。都市部での単独世帯の70〜75%は賃貸住宅に暮らしています。
国立社会保障・人口問題研究所が2024年4月に公表した推計「日本の世帯数の将来推計(全国推計)−令和 6(2024)年推計−」によると、2020〜2050 年の間に 65 歳以上男性の独居率は 16.4%→26.1%、女性は 23.6%→29.3%と大幅増加となります。
特に男性の単独世帯化が大きく進む見通しです。また2020〜2050 年の間に高齢単独世帯に占める未婚者の割合は、男性33.7%→59.7%、女性は11.9%→30.2%となり、近親者のいない高齢単独世帯が急増することになります。
こうした方々の求める賃貸住宅を考えれば、設備でいえば手すり等の高齢者対応ということになります。
一方でソフト面の拡充は必要であり、緊急時の駆けつけ対応(見守り対応)や、近親者のいない場合の入居時の保証人などの対応、建物内でのコミュニティ形成促進といったことが求められると思われます。
建築コスト上昇と付帯設備
ご承知のように建築コストは過去10年以上上昇し続けており、特に2021年以降は大きく上昇しています。この先もまだまだ上昇する可能性が高そうです。
付帯設備においても物(備品)の金額上昇とともに、工事費用も合わせて上昇しています。
こうした現状を考えれば、すでにかなり整っていると思われる賃貸住宅の付帯設備ですから、「新たな設備が備わる(=建築費が上昇する)」というよりもソフト面のサービスが付加されるという状況がしばらくは続くものと思われます。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイト:http://yoshizakiseiji.com/