建物・土地活用ガイド

2024/04/17

マイナス金利解除で賃貸住宅投資に影響はあるのか?

日銀は3月18−19日に行われた金融政策決定会合で、マイナス金利解除を含む大規模金融緩和政策を修正することを決めました。
金融緩和政策の変更の内容と、それにより賃貸経営にどんな影響を与えるかについて解説します。

金融緩和政策解除の内容

今回の主な緩和では、
 @現在−0.1%だった政策金利を0.1%に引き上げる
 Aイールドカーブ・コントロール(以下YCC)を止める
 BETFとJREITの買い入れを終了する

の3点が決まりました。

2022年以降2%以上のインフレが続いたこと、2024年の春闘では5%程度の賃上げが行われたことで「大規模緩和の役割は終えた」という判断がされたようです。これにより、日本では2016年2月から導入されたマイナス金利政策(民間銀行が中央銀行に預ける当座預金の金利をマイナスとする金融政策)は終了することになりました。
ある意味、特殊な金融政策(マイナス金利)から普通の金融政策に戻したと言えるでしょう。

しかし、各国の政策金利―アメリカ5.5%(3月分)、ユーロ4.5%(同)と比較すれば、日本は0.1%(+0.2%)ですので金利がほぼ無いに等しい状況が続きます。
YCCは2022年年末から上限金利を徐々に上げており、政策変更発表後も大きな変化はありませんでした。YCC撤廃後にも長期国債(10年物)の買い入れは継続すると発表があったからでしょう。

市場の反応

発表前から「市場と対話」して「事前の反応」を見るために金融緩和政策決定会合に出席する政策委員会のメンバーから政策変更をほのめかすコメントが出されており、市場は概ね受け入れるスタンスを示していました。
そのため、政策金利の上昇が僅かであった事、長期国債の買い入れを続ける事などから、「一定の緩和策は続ける」というスタンスが明確に分かり、株式市場は上昇しました。
特に借り入れが多い業種である不動産関連ビジネスでは、金利上昇、国債金利上昇につながる可能性があるマイナス金利解除は影響が大きいと見られていました。しかし、不動産株やJREIT投資口価格は「大きな影響はない」との安堵の思惑から、決定後値上がりしました。
また、為替相場は多少円高に振れると見られていましたが、19日午後以降も円安傾向が続き21日のドル円相場は1ドル=151円程度で推移しています。これは、マイナス圏からプラス圏(0.1%)に上昇したものの日米の金利差は依然5%以上あり、FRB※は3月の会合でも金利を下げず維持を決めたことが影響しています。為替相場では、マイナス金利解除は、「誤差の範囲」と見ているようです。

※アメリカの中央銀行制度の最高意思決定機関「連邦準備制度理事会」

利上げによる影響は?

金利が多少なりとも上がることにより、我々の日常生活や経済活動にも変化が起こります。
メガバンクを含め、多くの銀行が普通預金金利を上げることを発表しました。例えば三井住友銀行や三菱UFJ銀行では、17年ぶりに普通預金金利を上げました。それまでの0.001%から20倍の預金金利引き上げですが、それでも金利は0.02%と「ほぼないに等しい」金利です。
一方で、住宅ローン金利や企業の借入金利は上昇の可能性があります。住宅ローンにおいて多くの方が利用している変動金利も上昇する可能性があります。

依然として金融緩和は続いている

本来、中央銀行による利上げは、「金利を上げる」ことで「需要を抑える」ようにしむけ、「物価の安定を図る」という政策です。
今回の政策変更は「物価上昇率が安定的に2%を超える傾向が見える」と判断し、17年ぶりの利上げを行ったことで大きな変更といえます。しかし、現状の物価上昇はGDPギャップの数字を見ても「需要を抑える」レベルの需要超過ではなく、支出増加が物価上昇につながっている状況とは言えません。
そのため、政策変更の実態はわずかな金利上昇で、依然超低金利状態が続き「異次元の金融緩和」を「通常レベルの金融緩和」に変更した、くらいです。
市場では夏や秋にもう一段の金利上昇を予測(期待)する声が聞こえますが、現状のインフレ率の推移を見ているとコアCPIはこのところ連続して伸びが低下しています。仮に年内にもう一度金利上昇があったとしても、ごくわずかな上昇となるでしょう。

家賃の上昇可能性がいっそう高まる

今回の政策変更に際して、「2%以上の安定した物価上昇見通し」が見えてきた後に、日銀が最後まで数字に注目していたとされるのが賃金の動向です。春闘では賃金上昇率(ベアと定期昇給合計)が5%を超え、中小企業においても4%を超えるような状況です。
物価上昇と賃金上昇が顕著となれば、少し遅れて家賃上昇の可能性が高まります。「家賃は物価上昇に送れて上昇する」ことはよく知られています。賃金が上がれば家賃に回すお金が増え、家賃上昇に耐えうる好循環が生まれます。

賃貸住宅投資はどうなる?

最後に、賃貸住宅投資がどうなるのかを考えてみましょう。

政策金利上昇は短期プライムレート上昇につながり、ローン金利における変動金利上昇の可能性があります。ただ、今回の金利上昇はわずかなものでした。
また、YCC撤廃に伴い仮に長期国債金利が上がれば固定金利が上昇します。こちらは過度に上昇すれば日銀が買い入れを行うことを明言していますので、これまでの状況と大きな変化はないでしょう。
すでに家賃上昇傾向は顕著になってきていますが、かなりの確率でもう一段の上昇可能性があるものと思われます。

今回のマイナス金利解除は、賃貸住宅投資にはネガティブ要因にはならないでしょう。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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