建物・土地活用ガイド

2024/04/10

24年地価公示を読み解く バブルではない地価上昇

国土交通省から2024年1月1日時点の地価公示が発表されました。

全国全用途平均は2.3%上昇。昨年1.6%一昨年0.6%でしたので、3年連続して全国的に地価が上昇したことになり、順調な地価上昇基調が伺えます。用途別では、住宅地は+2.0%(前年+1.4%、前々年+0.5%)、商業地は+3.1%(前年+1.8%、前々年+0.4%)と、いずれも3年連続の上昇したうえ、連続して上昇幅が大きくなりました。

2024年の地価状況を見れば都市部の地価上昇はいっそう顕著となり、地方にまで波及しています。29都道府県まで広がり、住宅地・商業地とも上昇しました。今回は、24年地価公示の全体俯瞰と、後半では住宅地にフォーカスして解説します。

バブルとは言えない地価上昇の状況

公示地価を長期的に見ると1991年が価格ピークの都道府県が多く、全国全用途平均が前年比+11.3%と最も大きく伸びました。かなり差がありますが、2024年はそれに次ぐ2.3%の上昇率でした。ミニバブル期最終局面の2008年の上昇率が1.7%でしたので、2024年の地価上昇はミニバブル期を超える状況となっていることがわかります。

「バブル期」は1980年代後半から1991年まで全国的に勢いよく地価上昇が続いた後、92年以降急落しました。
2005年〜2008年には東京など大都市部の地価が上がりましたが、地方への波及はあまり見られず、全国平均の地価の上昇率のピークは1.7%でそれほどの伸びはありませんでした。例えば、ここ10年地価上昇が著しい沖縄でもこの間の地価はマイナスが続いていました。
そして2008年後半にリーマンショックの影響が出始め、また下落基調に戻ります。この2005年〜2008年の3年間の地価上昇は「ミニバブル期」と呼ばれています。

2015年頃から続く地価上昇は、都市部はもとより地方にも波及しており、「ジワジワ、ゆっくり」「長期に渡り」(コロナ禍を除く)というのが特徴で、地価が一気に上昇した「バブル」とまでは言えないでしょう。

東京圏の状況

首都圏(地価公示では東京圏)の状況を見ていきましょう。

東京圏は、東京都区部、多摩地区、神奈川県の一部(横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市など)、千葉県の一部(千葉市、市川市、船橋市、浦安市など)、埼玉県の一部(さいたま市、川越市、川口市、越谷市など)、茨城県の一部(取手市、守谷市など)の地点です。

東京圏では、全用途平均で+4.0%(前年+2.4%、前々年+0.8%)、住宅地は+3.4%(前年+2.1%、前々年+0.6%)、商業地は+5.6%(前年+3.0%、前々年+0.7%)となりました。いずれも3年連続で上昇幅が拡大しました。一都三県は住宅地・商業地とも全て上昇、連続して上昇幅も大きくなり、好調が続いています。

東京圏 住宅地の状況

東京都区部の勢いは強く、23区平均の住宅地上昇率は+5.4%(前年+3.4%)で、一昨年・昨年に引き続き23区全てで上昇。上昇幅も全ての区で拡大しました。
上昇率が最も高かったのは豊島区で+7.8%(前年+4.7%)、続いて中央区+7.5%(前年+4.0%)、文京区+7.4%(前年+4.4%)となっています。逆に、上昇率が最も小さかったのは世田谷区+4.0%(前年+2.3%)、練馬区+4.0%(前年+2.8%)で、続いて葛飾区+4.2%(前年+2.8%)と、比較すると戸建住宅の多い地域の伸びが低くなっています。

都心での住宅価格高騰を受けて、周辺地の住宅地地価の上昇が顕著となっています。子育てしやすい市として名高い流山市、川を渡ればすぐ東京都の市川市では、住宅地地価は10%を超える上昇となり、現在の住宅事情が色濃く出た結果となりました。

東京圏 商業地の状況

商業地では23区平均では+7.0%(前年+3.6%)で、2年連続で全23区の変動率がプラスとなりました。 再開発が増えており、新たな商業施設が誕生したり、マンションとの一体開発も増えています。商業地におけるマンション用地としての入札案件も多いようです。こうしたことが商業地地価上昇の要因の1つでしょう。

商業地で上昇率が最も高かったのは台東区+9.1%(前年+4.1%)、次いで荒川区+8.3%(前年+5.2%)、中野区+8.2%(前年+5.2%)となっています。台東区は国内外の観光客に人気の浅草があり、荒川区は成田国際空港へのアクセスの良さが再認識されたことが要因と思われます。

【地価公示における、住宅地と商業地とは?】
毎年3月に国土交通省から公表される地価公示や9月に公表される基準地価(調査主体は都道府県、公表は国土交通省から)では調査地点(=標準点)は用途別で分類されており、用途別で地価の上昇率などが発表されます。 各用途は以下のように定義されています。

「住宅地」とは、市街化区域内の第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域及び第二種住居地域並びにその他の都市計画区域内並びに都市計画区域外の公示区域内において、居住用の建物の敷地の用に供されている土地をいう。

「商業地」とは、市街化区域内の準住居地域、近隣商業地域及び商業地域並びにその他の都市計画区域内並びに都市計画区域外の公示区域内において、商業用の建物の敷地の用に供されている土地をいう。

国土交通省WEBサイト

特に東京圏では、賃貸マンションは利便性を重要視することから商業系地域内に建築されることもあります。そのため、商業地地価は商業用の建物の敷地に使われている土地の価格ですが土地取引の上では競合する関係にありますので、賃貸マンションの市況を見るには住宅地と商業地の両方を見るといいでしょう。

大阪圏 住宅地の状況

大阪圏では、全用途平均で+2.4%(前年+1.2%、前々年+0.2%)、住宅地は+1.5%(前年+0.7%、前々年+0.1%)、商業地は+5.1%(前年+2.3%、前々年±0%)となりました。

鉄道の延伸や延伸計画が進む関西エリアにおいて、住宅地にその影響が出ています。地下鉄御堂筋線から続く北大阪急行の延伸開業は3月23日でした。その延伸地域の地点が大阪府内での住宅地地価上昇率トップ、地下鉄新線計画(なにわ筋線)が通る大阪市西区は大阪府内の市区町村別で上昇率1位となりました。

大阪では「キタ」「ミナミ」と呼ばれる地域や周辺地域に住宅購入を含む不動産投資が集中する傾向が続いていますが、北大阪急行延伸、なにわ筋新線などの新線計画により広がり始めているようです。

大阪圏 商業地の状況

商業地はインバウンド需要が大きかったためコロナ禍の影響を強く受けましたが、順調に回復しており、上昇率は概ねコロナ禍前に戻っています。大阪府内で商業地の上昇率トップは道頓堀1丁目で+25.3%、次に難波1丁目の+22.1%と、ミナミの繁華街の上昇が際立っています。
また、昨年に引き続きJR大阪駅北側(旧梅田貨物ヤード)のグランフロントが最高値で、再開発2期(グラングリーン)の開業を控えた隣接の福島区などの上昇が顕著となりました。

名古屋圏の状況

名古屋圏(愛知県の主要地域、三重県の一部など)では全用途平均で+3.3%(前年+2.6%、前々年+1.2%)、住宅地は+2.8%(前年+2.3%、前々年+1.0%)、商業地は+4.3%(前年+3.4%、前々年+1.7%)となりました。商業地においては三大都市圏で最も上昇幅は小さく、海外旅行客・国内旅行客やビジネス需要があまり伸びていない様子が伺えます。
ただ、大規模再開発が進み、ホテルの新築・改装が続いている名古屋市の中心部では価格上昇が顕著となり、名古屋市の商業地の上昇率は+6.0%、16区全てが上昇しました。

住宅地では名古屋市中心部で堅調な上昇が続いており、中区+9.9%、熱田区+9.1%、東区+8.1%といった区域が目立ちました。

金利はもう一段上がるか?来年の地価動向

2024年3月19日にマイナス金利解除を含め金融政策に変更がありましたが、内容の実態は「異次元の金融緩和」から「通常時の金融緩和」への変更ということで、決定後の貸出金利は今のところ(執筆時2024年3月末日)ほとんど上昇していません。引き続き金融緩和が、つまり低金利が続く状況に変わりはなさそうです。「不動産市場は活況が続く見通し」と言えそうです。

このようなことから2025年3月に公表される公示地価も引き続き上昇の可能性が高いと思われます。ただし、年内にもう1回あるいは2回の金利の上昇があれば多少金利があがる可能性が高くなるので、日銀の金融政策の動向を注視しておきたいものです。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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