建物・土地活用ガイド

2024/01/29

住宅家賃上昇の現状と24年の見通し

物価上昇とともに住宅家賃の上昇も徐々に顕著になってきました。これまでは「キザシがある」という状況でしたが、2023年に入るとより鮮明な傾向となっています。そして2024年も家賃の上昇は続く見通しです。
今回は住宅家賃の見通しについて解説します。

物価の上昇の現状と要因の転換

2022年から引き続き2023年中は物価上昇が顕著な1年となりました。最新の全国消費者物価指数は、前年同月比+2.5%(生鮮食料品を除いたコア指数)となっており、3%を超えた8月からは多少伸びが鈍化しているものの、依然として2%を超える伸びが続いています。ガソリンや電気代などエネルギー関連に対する補助金が出ているため、1%程度押し下げていることを勘案すれば3.5%程度の伸びとなり、「どこまで物価上昇は続くのか」という不安が広がっています。
2022年から2023年前半は食品や製造業などを中心に原材料費の高騰が原因の価格転嫁が進んだことによる物価上昇でしたが、2023年後半は原材料費の上昇よりもサービス費(=人件費など)の上昇が顕著となってきています。
物価上昇にやや遅れて上昇する家賃※も、それほど大きくはありませんが23年に入り全国の指数で上昇基調となりました。

※消費者物価指数では民営家賃と言います。

データが少ない家賃動向

「家賃」と言えば賃貸住宅を借りる時の賃料のことですが、その家賃の詳細な動向が分かるデータは多くありません。賃貸住宅を管理する会社が自社管理物件の詳細なデータを公表していることはほとんどありません。賃貸住宅ポータルサイトなどでも、募集家賃は掲載されていますが成約家賃は分かりません。入居者からの家賃交渉で家賃が変わることがあるため、募集家賃=成約家賃とは限らないからです。そのため、別のアプローチで家賃動向を分析する必要があります。
そこでここでは、JREIT銘柄のうちレジデンス系銘柄の資産運用報告書から分析してみましょう。

継続賃料と新規賃料

まず、家賃が簡単には大きく変動しない背景について解説します。

家賃が変わるタイミングは2パターンあります。

@ 契約期間満了でそのまま継続(再契約)するタイミング
A 現入居者が退去し新入居者に変わるタイミング

@の場合、少し上がった(あるいは下がった)新賃料は「継続賃料」といい、Aの場合の新賃料は「新規賃料」と言います。
一般的な普通借家契約を結んでいるとして、継続賃料は大きく変化しません。例えば、家賃上昇の局面では新規賃料の方が上昇率は大きくなります。

新規賃料は不動産鑑定でいう「正常賃料」に該当し、正常な市場の中で成立する賃料です。一方継続賃料では、借地借家法によって賃借人は保護されているため、賃貸借契約が成立していた継続賃料を覆す「大きな値上げ」は難しくなります。

JREIT銘柄の賃料上昇状況

REITは上場している不動産ファンドです。そのため保有している資産の状況が細かく公開されています。決算関連資料(IR資料)は各JREIT銘柄のWEBサイト内で公開されており、誰でも見ることができます。
このうち、賃貸住宅100%のREITであるコンフォリア・レジデンシャル投資法人(3282)の資産運用報告書(2024年1月現在最新の23年7月期)を見てみましょう。

このREITの保有賃貸住宅は東京23区内が90.7%、部屋はほとんどがワンルームかコンパクトタイプとなっています。
報告書によれば、入れ替え時賃料変動率(新規賃料の上昇率)は、2023年7月期は4.6%の上昇でした。前期(2023年1月期)は2.5%の上昇、前々期(2022年7月期)は0.8%の上昇ですから、この1年間で大きく伸びていることが分かります。
一方の更新時賃料変動率(継続賃料)は、2023年7月期は0.5%の上昇、前期(2023年1月期)は0.3%の上昇、前々期(2022年7月期)は0.3%の上昇でした。継続賃料の上昇率には大きな変化が見られませんが、確実に賃料は上がっていることになります。

家賃の上昇はこれから?賃料の遅行性

物価上昇と賃料上昇のタイムラグは、概ね1.5年〜2年程度とされています。これが賃料の遅行性と呼ばれる性質です。賃貸住宅で多いワンルームやコンパクトタイプの物件の入れ替え年数は3年程度のようですので、遅行タイムラグ2年というのもうなずけます。
2022年から物価上昇が顕著になってきましたので、タイムラグを鑑みると2024年は賃料が物価上昇に連動し始める年に入ったと考えられます。

2024年の賃貸住宅家賃は、さらに上昇する可能性がかなり高いでしょう。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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