建物・土地活用ガイド

2023/11/21

金融緩和政策の修正と不動産市況への影響

10月30−31日と日銀金融政策決定会合が開催され、イールドカーブコントロールの再修正が決まりました。事前の市場予測通りでしたので驚きは少なかったようですが、長期金利の上限目途は22年12月から段階的に4回引き上げられたことで、金融緩和政策の出口を探る様相がはっきりとしてきました。今回は日銀の金融緩和政策の変更と不動産市況への影響について考えてみましょう。

金融緩和政策は維持されることに

10月30−31日の2日間、日銀金融政策決定会合が開催され、会合終了後の植田総裁の会見では以下の決定が発表されました。

・現在の大規模な金融緩和政策を維持(マイナス金利を維持)
・長短期金利操作=イールドカーブコントロール(以下YCC)を継続するものの、上限の目途を1%として一定以上超えることを容認
・ETFやJREITの買い入れの継続
・YCC以外は現行の金融緩和政策の継続

この発表を受けて日経平均株価は上昇しました。為替相場は長期国債金利の事実上1%超え容認を受けて円高に振れるとも予想されましたが、金融緩和政策は維持したことで31日午後には1ドル=151円に迫る円安の進行となりました。また、ユーロに対しても円安が進み1ユーロ=160円を超える水準にまで達しました。

物価上昇の見通し

年4回、本会合で発表される「経済・物価情勢の展望リポート」では、物価上昇率の見通しが。コア消費者物価指数(生鮮食料品を除いたもの)では、2023年度は前年比+2.8%(前回は+2.5%)、2024年度も+2.8%(前回は1.9%)、2025年度は+1.7%(前回は+1.6%)と、前回発表から再び少し引き上げました。
日銀が目標としてきた「安定継続的な2%程度のインフレ」を大きく上回る予測となっています。
金融緩和政策解除における物価上昇の注目ポイントは、24年1月に発表される次回の「経済・物価情勢の展望リポート」内での2025年度の物価上昇の見通しが“現行予測の+1.7%から2%を超えるかどうか“でしょう。

円安が続く影響で、輸入物価上昇を起因とする物価上昇も続いています。引き続きアメリカ経済が強い状況で、高金利が続き円安に歯止めがかかる気配が見えません。このため、まだ物価上昇の可能性が強まっている状況といえるでしょう。

賃金がどこまで上がるか?

焦点となったのは「賃金の上昇」が物価上昇についていけるかということでしょう。現在マイナス圏の実質賃金(名目賃金÷インフレ率)がプラスの圏内に入れば、金融緩和政策を解除する可能性が高まります。
そこで注目が集まるのが「24年春の労使交渉でどれくらいの賃上げとなるか」です。連合によれば2023年春の賃上げ交渉では+3.58%でしたが、「2024年春は5%を目標にしている」ということです。もしこれが実現すれば、金融緩和政策解除のタイミング「賃金の上昇を伴う安定した物価2%上昇」に合致しますので、注目が集まります。

イールドカーブコントロールの変更と不動産市況への影響

「金融緩和政策を続けること」には賛否両論があるようです。金融政策の正常化を求める声や緩和を続けないと一気に景気が冷え込みかねないという声。全体的にはしばらく金融緩和を続けるべきだという声の方が多いようです。ただ、不動産市況にとって低金利誘導政策は間違いなく追い風になります。

長期国債利率の上昇は、不動産投資の際の指標となる還元利回りの上昇にもつながります。この時賃料が横ばいなら投資用不動産の価格下落の可能性が出てきます。※
ですが、このところの都市部での住宅賃料は上昇傾向にありますので、多少の利回り上昇分は吸収できると思われます。

※還元利回りは長期国債の期待利回り+リスクプレミアムで算出します。 
収益還元法による不動産価格は経費を除いた純利益÷還元利回り×100で計算されるため、還元利回りの上昇が不動産価格の下落につながります。

しかし、10年物国債(長期国債)の上昇は、例えば住宅ローンの固定金利に影響があります。今回のYCCの修正前に決まっていたと思われる固定型住宅金利はすでに上昇のキザシがハッキリと見えています。
一方で多くの方が利用する変動金利は、短期プライムレートに連動します。つまり政策権利の影響はほとんどありません。

住宅ローン固定金利が上昇

みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行の3大メガバンクが10月31日に発表した11月適用分の固定型住宅ローン金利が、前月に比べて上昇しました。10年固定型の基準金利の単純平均が3.80%(+0.12%)というのは12年ぶりの高い水準で、優遇後の金利でも1.29%(+0.12%)となりました。固定金利は長期金利の動向を反映するため、このところの長期国債金利上昇によるものです。
長期金利の事実上の上限だった1%を「目途」とし、一定程度超えることを容認するイールドカーブ・コントロール(YCC)の再修正を決めたことで、長期金利は0.9%台となっています。
大手金融機関の固定型ローンの金利は前月の中〜下旬の長期金利をもとに決めるのが一般的で、11月のローンには今回のYCCの再修正は反映されていないと思われます。そのため、固定型ローンの金利は12月以降にさらに上昇する可能性が極めて高いでしょう。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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