建物・土地活用ガイド

2023/10/12

23年基準地価の分析とIR計画による関西の地価上昇期待

国土交通省より2023年の都道府県地価調査が公表されました。
都道府県地価調査は都道府県が調査主体となって行われ、価格時点を7月1日として、全国23,381地点の「基準地」の地価を調査・鑑定します。この調査結果により公表される地価は「基準地」の地価ということで、「基準地価」とも呼ばれます。
今回は23年基準地価の分析について解説します。
※すべてのデータは国土交通省「都道府県地価調査」をもとにしています。

全国と大都市圏の状況

2023年都道府県地価調査では、全国平均で全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年連続で上昇し、昨年を上回る上昇率となりました。全用途平均は1.0%の上昇(昨年は+0.3%)。2020年、2021年はマイナスでしたが、その後は価格上昇が続いています。住宅地は0.7%の上昇(昨年は+0.1%)でした。商業地は1.5%の上昇(昨年は+0.5%)となりました。後述しますが、大都市に加えて地方主要都市、その他周辺都市と、地価上昇地域が拡大しています。

3大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)では全用途平均・住宅地・商業地・工業地のいずれも上昇し、上昇率も拡大しています。すべてが上昇したのは2年連続となり、上昇基調が鮮明となっています。
大都市部住宅地地価上昇の要因として、都市部中心地域や生活利便性の高い地域では住宅需要はかなり堅調で、金融緩和政策の継続で住宅ローンも低金利が続いていることなどが需要の下支えとなり、地価上昇が継続しています。
都市部の商業地においてはコロナ後の人流回復によって店舗需要は回復が鮮明となり、また、新型コロナウイルス感染症の位置づけが「5類感染症」となったことでオフィス需要も堅調となっていることから、地価上昇傾向がより鮮明となっています。

地方都市への波及が続く。住宅地基準地価の状況

住宅地地価を圏域別で見ると、東京圏では+2.6%(前年は+1.2%)、大阪圏+1.1%(前年は+0.4%)、名古屋圏+2.2%(前年は+1.6%)となっています。
三大都市圏以外に目を向ければ、地方圏全体で+0.1%(前年はー0.2%)。このうち地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると、+7.5%(前年は+6.6%)となりました。
地方4市を除けばー0.2%で、来年も現状が続けばプラスが期待できそうです。

【図1】基準地価 変動率 直近5年間の推移(住宅地)


国土交通省「都道府県地価調査」より作成

東京都・大阪府・愛知県・福岡県の4都府県と全国の直近5年間の住宅地基準地価変動率は図1のようになります。これを見ると全てのグラフで2019年の変動率を上回る状況となっていることがわかります。
※21年・22年の東京都と愛知県のグラフの重なりは値が同じためです。

【図2】基準地価 変動率推移(住宅地)


国土交通省「都道府県地価調査」より作成

図2は、もう少し長期で見たもので2001年からの変動率の推移となります。
2006〜08年のミニバブル期に大きく上昇、その後のリーマンショックで大きく落ち込んだのち、2014年頃から(コロナ禍の20年を除けば)上昇率は高くないものの長期にわたり上昇を続けていることが分かります。

大阪IR計画推進で住宅地地価上昇へ?

住宅地における基準地点の変動率上位に目を向ければ、ベスト10のうち8つが北海道で、特に2022年に日本国内の大手企業の支援で設立された半導体企業「ラピダス」の工場建設が進む千歳市の上昇が顕著で、ベスト3は全て千歳市の地点でした。
大規模工場、とくに先端技術を活用した企業が進出する場合、工場で働く方だけでなく、いわゆる理系人材と呼ばれる働き手を各地から募る事になります。家族で転居する方々、単身で転居する方々が増え、会社・工場周辺地域に多数の住宅需要が起こるため、持ち家・賃貸住宅ともニーズが高まり、住宅地地価上昇につながります。

2025年の大阪万博、そして2029年開業予定の大阪IR計画により、大阪北港夢洲の開発が進められています。特に、IRではカジノやコンベンションセンター(MICE)、高級ホテル、劇場、商業施設などがオープンする予定です。そうなれば近隣地域や沿線地域では夢洲で働く方々の住宅需要が起こりますので、今後5〜7年間にわたり地価上昇が期待できそうです。

商業地地価上昇続くがコロナ禍前の上昇率には届かず

次に商業地を見てみましょう。
商業地地価を圏域別に見ると、東京圏では+4.3%(前年は+2.0%)、大阪圏は+3.6%(前年は+1.5%)、名古屋圏は+3.4%(前年は+2.3%)となりました。前年に引き続き3大都市圏が全てプラスでした。
商業地においても、地方圏の上昇が顕著となっています。
地方圏全体では+0.5%(前年はー0.1%、前々年はー0.7%)で、2019年以来のプラス圏となりました。
地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると+9.0%、前年は+6.9%でしたので、さらに上昇幅が拡大したことになります。4市を除く地方圏では+0.1%となり(前年はー0.5%)、その他地方圏でも商業地地価が上昇しました。

【図3】基準地価 変動率 直近5年間の推移(商業地)


国土交通省「都道府県地価調査」より作成

直近5年における東京都・大阪府・愛知県・福岡県の4都府県と全国の商業地地価の変動率を見ると、図3のようになります。いずれの地域も上昇が顕著ですが、新型コロナウイルス影響前の2019年ほどの上昇率には戻っていません。住宅地の上昇率は2019年程度に戻っていますので、商業地の方が影響が大きく、まだ回復半ばと言えるでしょう。

商業地も人口集積で地価上昇へ

商業地においても、大規模工場稼働は大きな影響を与えています。
商業地の変動率上位の地点を見てみると、ベスト10のうち半導体企業が進出する周辺地域が6つランクインしています。1位・6位・10位は台湾の世界有数の半導体企業TSMCが工場稼働を進める熊本県大津町、菊陽町の地点で、2・3・4位は千歳市の地点です。
これら半導体企業の進出エリアは働き手や関係者が増えることによる地価上昇ですが、大阪IR計画は働き手と関係者に加えて、大きなイベントや展示会が連日開催されることになれば全国・世界各地から来場者が訪れ、商業に与える影響は相当大きなものとなります。そのため大阪夢洲につながる地域、また大阪キタ・ミナミエリア、さらには京都市や神戸市の商業地地価は、これから上昇基調が拡大するものと思われます。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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