建物・土地活用ガイド

2023/09/12

23年上期の新設住宅着工戸数の動向と23年後半・年間の見通し

23年上期(1−6月)の新設住宅着工戸数の状況とその傾向から、23年1年間の着工戸数見通しについて分析します。

苦戦が続く「持ち家」と比較的好調の「貸家」

8月31日に2023年7月分の新設住宅着工戸数が国土交通省より発表されました。
これによると、23年7月分の新設住宅着工戸数は68151戸で2カ月連続のマイナスでした。特に「持ち家」の着工戸数の低迷が続いています。7月分は前年同月比−7.8%と4カ月続いた2ケタマイナスから脱出したものの、前年同月比で見ると21年12月から23年7月まで20カ月連続でマイナスです。
「貸家」(主に賃貸目的の住宅)は前年同月比+1.6%でした。4月以降隔月で交互に前年同月比プラスとマイナスとなっています。

60年ぶりの超低水準!「持ち家」の23年上期着工戸数の状況と23年年間の見通し

主に自己所有の土地に自宅を建てる「持ち家」の22年の建築数は25.3万戸、21年比は−11.3%となりました。22年の1年間全て前年同月比マイナスですが、とくに6月以降は2ケタのマイナスでした。工事費上昇に伴う住宅建築価格上昇が大きく影響しているものと思われます。この流れは23年も続いており、23年1月以降も前年同月比マイナスが続いています。23年1−6月の合計が約11万戸で、昨年よりも10%以上。一昨年から見ると2割程度低くなっています。
23年1−6月期の前年同月比べースで計算すれば、23年年間の「持ち家」着工戸数は22.6万戸。23年1−6月合計を単純に2倍すれば22.0万戸で、1960年台後半並みの数字ということになります。60年ぶりの低水準になることは確実でしょう。


参考:国土交通省 建築着工統計調査報告

今後もさらなる住宅建築費の上昇が見込まれており、「持ち家」はかなり長く苦戦することが予想されます。ハウスメーカー各社もモデルハウス出店を一部撤退したり、安価な分譲住宅建築に力点を置くなど、苦しい状況を回避しようとしています。賃金上昇が顕著になるまで、もしくは住宅建築費が下がるまで、かなり厳しい数字が続くものと思われます。

昨年を少し上回るか。「貸家」の23年上期着工戸数の状況と23年年間の見通し

一方、賃貸目的での住宅建築である「貸家」は、22年の貸家着工戸数は34.5万戸、2021年比で+7.4%と、21年2月以降22年の1年間を通じて前年比プラスでした。2023年に入っても好調が続いていましたが、4月と6月は前年同月比マイナスとなりました。それでも2023年1−6月の半年合計では+2.5%の約16.9万戸となっています。
地主の方の土地活用としての賃貸住宅建築、土地建物セットでの賃貸住宅投資、事業会社の賃貸住宅建築などがまだまだ好調であることを考えると、23年も昨年同様の数字が期待できそうです。

1−6月期の前年同月比べースで計算すれば、2023年の年間の「貸家」着工戸数は35.3万戸、1−6月合計を単純に2倍すれば33.8万戸となります。昨年が34.5万戸でしたので、ほぼ近い数字での着地となりそうです。
プラスの影響が予想されるのは事業会社による賃料収入投資が増えそうな様相であること。マイナスの影響を及ぼす恐れがあるとすれば、金利の上昇でしょう。

新設住宅着工戸数の23年後半の見通し

「持ち家」と「貸家」については解説したとおりですが、新設住宅着工戸数(総数)には、これに分譲住宅(分譲マンション・分譲戸建)と給与住宅(社宅)が加わります。
分譲住宅の2023年1−6月の合計は12.8万戸で、前年の1−6月合計に比べてわずか0.2%のマイナスとなりました。前年同月比で見ると大きくプラスの月と大きくマイナスの月があり、この先もこのように上下を繰り返すでしょう。
しかし、分譲マンション、分譲戸建ともに建築・販売するための用地不足が続いており、需要はあってもなかなか供給できない状況のようです。用地不足はデベロッパー(あるいはハウスメーカー)間での用地仕入れ競争に繋がり、土地価格上昇に向かいます。そのため、分譲住宅の新設住宅着工戸数が伸びる可能性は低いでしょう。昨年の年間合計は25.5万戸で今年も同水準と予想します。
なお、2023年1−6月合計の新設住宅着工戸数(総数)は40.9万戸で昨年比−2.2%でした。
※社宅の建築数は少ないため開設を省きます。

以上を総合して考えると、2023年1−6月の前年同月比ベースで計算すれば年間の総数は84.1万戸、1−6月合計の2倍ならば81.9万戸となり、年間の総数はこの2つの数字の間程度で着地すると予想します。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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