建物・土地活用ガイド

2023/05/31

金融緩和政策変更の可能性と不動産市況への影響

約10年ぶりに日銀総裁が変わりました。「総裁が変わると金融政策が変わるかもしれない」という報道も目立ちましたが、実際は日銀の金融政策は政府の意向を踏まえた上で10人の審議員で構成される金融政策決定会合で決まりますので、そう単純なものではありません。
今回の記事では日銀の金融緩和政策の変更可能性と不動産市況への影響について考えてみましょう。

金融緩和政策は継続、しかし出口のラインは見えた

4月27−28日の2日間、植田新総裁にとって初めての日銀金融政策決定会合が開催されました。会合終了後の会見で、短期金利マイナス0.1%程度、長期金利をゼロ%程度に誘導、長短金利操作=イールドカーブ・コントロール(以下YCCと表記)を継続、さらにはETFやJ-REITの買い入れの継続、と総じて現行の金融緩和政策の維持が決定されたことが発表されました。
※参考:日本銀行「金融市場調節方針に関する公表文」

毎年4月の本会合で発表される「経済・物価情勢の展望レポート」では、物価上昇率の見通しを、2023年度のコア消費者物価指数(生鮮食料品を除いたもの)は前年比プラス1.8%、2024年度はプラス2.0%と前回発表から少し引き上げました。日銀が引き続き目標としている「安定継続的な2%程度のインフレ」に近い見通しとなっています。この目標には「賃金の上昇を伴う」とありますので、現在まだマイナス圏の実質賃金(名目賃金÷インフレ率)がプラスの圏内に入れば、金融緩和政策を解除することになりそうです。

今回の会見では金融緩和政策の全面的な継続となりましたが、その一方で「今後こうなれば金融緩和政策を解除する」というラインが見えたのではないかと思います。
@ コア消費者物価指数(CPI)が2%を超えること
A 実質賃金が上昇すること

の2つが柱となりそうです。

1つ目のコアCPIは、例えば4月28日に発表された東京都区部消費者物価指数はプラス3.5%とすでに2%を超えています。コアCPIについてはこの先上昇率が鈍化することが予想されていますが、それでも2%前後は維持するものと思われます。

2つ目の実質賃金は、毎月勤労統計調査2月分(4月7日公表:執筆時最新)では前年同月比マイナス2.6%で、これは11カ月連続のマイナスとなっています。ただ、今年の春闘労使交渉では平均3.69%の賃上げ率でしたので、時間差で実質賃金も上昇してくるものと思われます。しかし労働人口の大半を占める中小企業の賃金動向は依然厳しいようですので、実質賃金の前年同月比がプラス圏に入るかどうかはもう少し様子を見なければ分かりません。
@Aの両方をクリアし、金融緩和政策を緩めるタイミングは早くても24年以降になりそうです。

日銀の役割と2つのカード

ここで改めて日本銀行の役割について確認しておきましょう。
中央銀行としての日銀は、日本の金融政策の実行役です。日銀(中央銀行)の役割は単的に言えば「物価を安定させること」です。その手段として、かつては「公定歩合」と呼ばれた「政策金利」を決めます。政策金利を上げ下げすることで、需要に対する操作を行うわけです。
インフレ時は金利を上げることで需要を減らし、インフレ抑制へとつなげます。このところ続いている金融緩和政策は、金利を大幅に下げることで需要を促進させ、デフレ脱却〜インフレ誘導を行っているわけです。

大正時代には「米騒動」と呼ばれる事件が起きました。米価が急騰して、市民に大きな不満が広がり、暴動に発展したわけです。世界中どの政府も「インフレを起こさない」ことは至上命題であり、その為に中央銀行と連携し、物価の安定を目指しています。
しかし、現在の日銀は本来の役割である「政策金利の決定」以外にも、かつてはタブーと言われたイYCCなどを行うことで、より強い金融緩和政策を推し進めています。こうして見ると、金融緩和政策の変更を行う際、日銀は「政策金利の調整」と「YCCの調整」の2つのカードを持っていることになります。

イールドカーブ・コントロールの変更と不動産市況への影響

この先仮に、金融緩和政策を徐々に緩めるとするならば、現在10年物国債を±0.5%内に誘導しているYCCを解除することから始めると思われます。2022年12月20日に予告なく許容幅を±0.25%から±0.5%に変更した際には、10年物国債の利回りは一気に上昇しました。例えば10年物国債(長期国債)の上昇は住宅ローンの固定金利などに影響があります。現にこの時、住宅ローン固定金利は上昇しました。(現在は落ち着いています)
しかし、これは多くの方が利用する変動金利には影響はほとんどありません(変動金利は短期プライムレート連動、つまり政策金利の影響を受ける)。
また、長期国債利率の上昇は、不動産投資の際の指標となる「収益還元利回り」の上昇にもつながります。つまり、投資用不動産の価格下落の可能性が出てきます。ここは注意したいところです。しかし、コントロールの解除で直ちに長期国債金利が上昇するかどうかは、その時の金融状況次第です。慌てず注視しましょう。

さいごに

「金融緩和政策を続けること」には賛否両論あるようです。金融政策の正常化を求める声や、緩和を続けないと一気に景気が冷え込みかねないという声、全体的にはしばらく金融緩和を続けるべきだという声の方が多いようです。
不動産市況にとって低金利誘導政策は間違いなく追い風になりますので、あと数年は金融緩和を続けて欲しいところです。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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