建物・土地活用ガイド

2023/04/11

2023年地価公示を読み解く 住宅地は全国的に大幅上昇へ

国土交通省から2023年1月1日時点の地価公示が発表されました。全国全用途平均は上昇率が昨年から1.0ポイント上回る1.6%の上昇で、2年連続のプラスとなりました。2000年以降ではミニバブル期の2008年に1.7%上昇しましたが、それに次ぐ大きな伸びとなりました。
全国の上昇地点は、調査対象の全国2万6,000の標準地のうち58%となり、昨年の43.6%を大きく上回りました。
ウイズコロナのもとで徐々に景気が回復していく中で、都市部が周辺エリアを牽引する形で地価の上昇が続いており、昨年よりも地価の回復が顕著でした。
今回は2023年地価公示の全体俯瞰と、後半では住宅地にフォーカスして解説します。

地価公示の目的と他の地価との違い

毎年大きくメディアでも取り上げられる地価公示ですが、この国土交通省が主体となって行う地価調査は、どんな役割を担っているのでしょうか。

地価公示法によると、地価公示で算定される地価(=公示地価)は
 @一般の土地取引の指標(売り手にも買い手にも偏らない客観的な価値)
 A公共事業などでの取得価格算定の規準

として、適正な地価の形成に寄与することが目的とされています。
地価公示での土地価格は、建物がある場合や、抵当権や地上権などの使用収益を制限するものがある場合は、それらがないものとして(=つまり更地として)算定されます。

毎年公表される地価は、国土交通省土地鑑定委員会が調査主体の公示地価(3月に公表:1月1日が価格時点)、国税庁が公表する路線価(7月に発表:1月1日が価格時点)と基準地価(9月に公表:7月1日が価格時点)があります。このうち、路線価は公示地価をもとに算定されます。
一方、基準地価は各都道府県が調査主体(都道府県地価調査と呼ばれ調査地点数も多くなります)で、ちょうど年半ばの中間発表という位置づけです。

全体的な地価上昇、特に地方で顕著に

全国平均を用途別に見ると、住宅地は+1.4%(前年は+0.5%)、商業地は+1.8%(前年は+0.4%)となり、いずれも上昇幅が拡大しました。
2021年は新型コロナウイルスの影響で全国的に落ち込みが見られましたが、2022年には回復傾向が見えはじめました。そして2023年、地域や用途に差はあるものの都市部を中心に上昇幅が拡大、地方へ上昇範囲が広がっています。

中でも地方圏の上昇が顕著で、地方4大都市(札幌市・仙台市・広島市・福岡市)に限れば住宅地は+8.6%(前年は+5.8%)、商業地は+8.1%(前年は+5.7%)でした。

住宅地公示地価 前年平均変動率(全国)
 
国土交通省「令和5年地価公示」より作成

これら4市を除いた地方圏では、住宅地は+0.4%で28年ぶりに上昇しました。商業地は+0.1%でした。

3大都市圏の地価状況

3大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)全体では、全用途では+2.1%(前年は+0.7%)。住宅地は+1.7%(前年は+0.5%)で、住宅地の三大都市圏の平均は2008年以降最高の伸びを示していた2020年を超える上昇でした。
商業地も+2.9%の上昇となり、3大都市圏すべてで全用途、住宅地、商業地のいずれもプラス幅が拡大しました。

東京圏:東京都区部、多摩地区、神奈川県の一部(横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市など)、千葉県の一部(千葉渋谷駅、東京都渋谷区市、市川市、船橋市、浦安市など)、埼玉県の一部(さいたま市、川越市、川口市、越谷市など)、茨城県の一部(取手市、守谷市など)
大阪圏:大阪府全域、京都府の一部(京都市など)、兵庫県の一部(神戸市、西宮市、尼崎市など)、奈良県の一部(奈良市など)
名古屋圏:愛知県の一部(名古屋市、岡崎市、一宮市など)、三重県の一部(四日市市、桑名市など)

住宅地公示地価 前年平均変動率(3大都市圏)

国土交通省「令和5年地価公示」より作成

東京圏の住宅地

東京圏の住宅地は+2.1%(前年は+0.6%)で、昨年に引き続き23区全てで上昇。上昇幅も全区で拡大しました。特に国土交通省の資料では「特徴的な地価動向」が見られた地点として、駅前再開発の進む中野区や、足立区の綾瀬駅周辺などがあげられています。

東京圏における新線効果は?

2023年3月18日、相模鉄道と東急電鉄の直通線「新横浜線」が開業しました。東海道新幹線が通る新横浜駅、新宿・渋谷・目黒といった山手線駅やさらにその内側エリアへ、沿線住民のアクセスが大きく向上しました。新線沿線や新線と連結された路線の駅周辺では高層マンションを含む複合施設の建設など再開発が進んでいます。

新しく誕生した新綱島駅、新横浜駅などがある横浜市港北区の住宅地は2.6%上昇。また横浜市神奈川区の羽沢横浜国大駅近くの標準点では5.3%上昇しました。
インフラ整備は地価に大きな影響があり、今回の新線開通でもその様子が分かります。

大阪圏の住宅地

大阪圏全域で住宅地が+0.7%(前年は+0.1%)、商業地は+2.3%(前年は±0%)上昇しました。
住宅地地価を主要都市で見ると大阪市は+1.6%、神戸市は+1.2%、京都市は+1.2%と、関西3大都市は全てプラスとなりました。大阪市の中心街である梅田へのアクセスがよい福島区、神戸市の中心街である三宮へのアクセスがよい灘区などの地価上昇が目立ちました。

また、奈良市の近鉄大和西大寺駅周辺では再開発が進み、駅近隣の住宅地は+10.3%と大阪圏内トップの上昇となりました。2位以降でも都心へのアクセスがいいエリアが続いており、都心よりも「郊外」のイメージが強いエリアの顔ぶれが目立ちます。

一方、昨年のランキングを見ると、多くが大阪や京都の中心エリアとなっています。つまり、2022年は都心部での地価が大きく上昇しましたが、それが住宅需要のある利便性が高い郊外へも波及しているようです。

名古屋圏の住宅地

名古屋圏の住宅地は+2.3%(前年は+1.0%)、商業地は+3.4%(前年は+1.7%)上昇しました。名古屋圏は全用途、住宅地、商業地のいずれも、3大都市圏では最大の伸びとなりました。
住宅地では名古屋市中区が+11.1%、東区が+6.5%。また、東海市が+7.8%と伸びており、名古屋圏においても中心地から郊外へ住宅地の地価上昇が波及している様子がうかがえます。

福岡市や地方4市の住宅地

地価公示では3大都市圏という括りになっていますが、日本の4大都市というと東京・名古屋・大阪・福岡の4都市があがります。福岡市の状況はどうでしょう?

住宅地公示地価 前年平均変動率(地方圏)

国土交通省「令和5年地価公示」より作成

福岡市は地価公示において、地方都市4市(札幌・仙台・広島・福岡)として括られています。地方4市の住宅地は8.6%上昇(前年は5.8%上昇)で、10年連続のプラスとなりました。
冒頭で述べた地方4市を除く地方圏では、住宅地は+0.4%(前年は+0.6%)上昇しました。地方4市の住宅地の上昇率が拡大しており、これら中心部の地価上昇に伴い、需要が波及する形で周辺の市などが高い伸びとなったことが要因でしょう。

地方4市を北から順に見ると、札幌市+15.0%(県庁所在地で全国トップ)、仙台市+5.9%(同3位)、広島市+1.7%、福岡市+8.0%(同2位)です。
昨年に続き札幌周辺都市での地価上昇が目立ち、国土交通省が発表する住宅地の公示地価変動率上位10位の地点はすべてこのエリアでした。
地方4市すべてに勢いがあるわけではなく、札幌市やその周辺都市の勢いが最もよく、次いで福岡市とその周辺地域の勢いがよいことが分かります。

金融政策次第の来年の地価動向

2023年4月現在、不動産市況を大きく左右する金利は依然低いままです。アメリカやヨーロッパでは一部金融機関の不調が伝えられており、欧米の高いインフレ率とそれを抑えるための金利上昇政策の影響が出始めています。
一方日本では、欧米に比べると低いインフレ率にとどまっています。しかし、10年近く続く金融緩和政策をいつまでも続けるわけにもいかないことは明らかです。このような金融政策の動向が来年の地価動向に大きな影響を与えそうです。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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