建物・土地活用ガイド

2023/01/23

2023年の不動産市況と賃貸住宅建築市況の予測

2022年の不動産市況、賃貸住宅建築市場は比較的好調と言える1年でした。
ただ、22年春以降、世界的に広がるインフレの影響でアメリカをはじめ多くの国々が大きな利上げを繰り返してきました。日本でも22年夏ごろから徐々に物価上昇が見られ、12月20日には日銀の異次元緩和政策が転換されました。
先行きが読みにくくなっている金融・不動産市場ですが、今回は23年の不動産市況・賃貸住宅建築市場を予測したいと思います。

22年の貸家着工件数

国土交通省が公表している新設住宅着工戸数の月別推移を見ると総数は約86万戸で、昨年並みとなりそうです。しかし、主に自宅用住宅建築の「持ち家」は前年比で10%以上のマイナスとなり、年間計は25万戸台程度になりそうです。昨年の反動減に加えて、物価上昇の影響で「買い控え」の状況にあるようです。

一方、賃貸用住宅が主な「貸家」では、21年3月以来22年11月分のデータまで前年同月比プラスが続き好調です。年間でも前年比8%程度のプラス、35万戸程度で着地しそうです。新型コロナウイルスの影響がなかった2019年を超える見通しとなっています。
貸家は主に遊休地活用(土地活用)として賃貸住宅や投資用賃貸住宅が建築されますが、21年、22年中ともかなり勢いがよく、賃貸住宅建築、賃貸住宅投資は活況でした。

不動産投資市況が強く反映される期待利回り(キャップレート)のデータからも賃貸住宅投資の活況ぶりが伺えます。(財)日本不動産研究所が年二回(4・10月)調査する投資家調査のキャップレートの動きを見ると、22年10月調査(11月25日公表)では賃貸住宅(ワンルームタイプ:1棟)のキャップレートは東京城南エリア(目黒区・渋谷区)で3.9%となり、調査開始以来、初めて4%を下回りました。また実際の取引水準では3.6%程度となっています。大阪では4.5%、名古屋では4.8%、福岡では4.7%と、いずれも2000年以降では最も低くなっており、賃貸住宅投資熱が極めて高い状況にあると言えそうです。

※上記数値は22年12月時点で公表のデータから推計

日銀金融政策変更が今後の不動産市況に与える3つの影響

比較的好調な22年の賃貸住宅投資市況でしたが、今後の展開では気になる点もあります。
12月20日に日銀が「異次元緩和」を少し転換する政策を発表しました。政策金利はいわゆる「マイナス金利政策」を維持するものの、長期国債の買い入れにおける許容範囲をこれまでの0〜±0.25%から0〜±0.5%に変更するというものです。これにより、長期国債は0.5%まで上昇する可能性が出てきました。実際に12月28日の10年物国債の金利は0.45前後で推移しています。

長期国債金利の上昇は、不動産市況に3つの影響を及ぼします。

@ 住宅ローン金利、特に固定金利の上昇
すでに住宅ローン固定金利は上昇しています。また、仮に政策金利が上がれば、短期プライムレートが上昇、そして変動金利の上昇可能性が高まります。こうした状況になれば、22年は低調だった「持ち家」建築が、23年も厳しくなるでしょう。

A キャップレートの上昇可能性
キャップレートの上昇は、賃料一定ならば理論上(実取引ではなく)は価格下落を意味します。理論上の価格が動くことと、実取引での価格が動くことの間にはタイムラグがありますが、「そのうちに」理論価格に収斂されます。

B 円高へ振れることで外国人投資家の優位性が減る
実際に先に述べた国債金利の許容範囲の変更により、為替相場は大きく動きました。一時は1ドル150円に迫る状況から、現在では132円前後となっています。

これら3つから判断すると、23年の不動産市況は金利次第、ということになります。前半は22年の勢いのままで進み、金利が上がれば後半は失速の可能性が高まります。

23年の賃貸住宅建築市況を予測

23年の賃貸住宅建築市況を3つの視点から予測してみましょう。

@ 金利のゆくえ
22年末時点、政策金利は「ゼロ金利」となっています。ただし、国債金利は上昇しています。23年は1月17−18日、3月9−10日、4月27−28日の日程で日銀金融政策決定会合が開催予定で、3月・4月の同会合では「マイナス金利政策」の解除の可能性を指摘されていますが、いまのところ五分五分というところでしょう。
金利が上がる気配が見られれば、駆け込み需要が起こる可能性があります。この観点から見れば、前半は好調、後半はブレーキとなるでしょう。

A 物価上昇
キャップレートの上昇は、賃料一定ならば理論上(実取引ではなく)は価格下落を意味します。理論上の価格が動くことと、実取引での価格が動くことの間にはタイムラグがありますが、「そのうちに」理論価格に収斂されます。

B 企業活動の変化
23年は法人税増税の可能性や株価が低調になりそうなことから、大手企業はより一層経営の合理化を求められる環境になるでしょう。
すでにその兆候が見られますが、そのような流れの中で企業が保有する有効活用していない土地や不動産の精査が行われると思われます。
結果、有効活用できていない土地や不動産を「収益が上がる不動産」として活用する動きが活発化するのではないでしょうか。その選択肢の1つが事業会社による賃貸用物件(賃貸住宅含む)の保有です。この流れは、賃貸住宅建築市況にはプラスに働くでしょう。

これらを総合して勘案すると、23年の賃貸住宅建築市況は概ね22年並みになると予測しています。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

疑問に思うこと、お困りごとなど、まずはお気軽にご相談ください

  • ご相談・お問合わせ
  • カタログ請求

建築・土地活用ガイド一覧へ