建物・土地活用ガイド

2022/09/30

住宅地地価上昇が顕著に!2022年最新 都道府県地価を読み解く

2022年の都道府県地価調査が9月20日に公表されました。毎年9月20日頃に公表される都道府県地価は「基準地価」とも呼ばれ、7月1日を価格時点としています。公的機関から公表される地価は4つありますが、そのうち唯一7月1日を価格時点(残り3つは1月1日時点)としています。そのため、ちょうど中間点的な意味合いで毎年注目を集めます。
2022年の基準地価では、経済活動が正常化している中で、住宅や店舗などの需要は順調に回復傾向にあり、それがどれくらい地価に反映されているのか注目が集まっていました。

今回は、発表されたばかりの都道府県地価について解説します。(本文、図表とも、データは全て国土交通省「令和4年都道府県地価調査」より作成)

全国の状況

今年の都道府県地価では、住宅地の全国平均が1991年以来31年ぶりにプラス(+0.1)となったことが大きな話題となりました。1991年と言えばバブル期において地価が最も高かった頃で、この年を境に地価は下落し始めます。ちなみに株価は1989年の年末、地価は1991年がピークでしたが、この1991年の頃はまだ「バブルが崩壊した」と多くの方は考えておらず、調整局面というイメージでした。

全用途全国平均は、+0.3%で3年ぶりにプラス(前年は−0.4%)となりました。住宅地全国平均は+0.1%(前年は−0.5%)。商業地全国平均は、3年ぶりのプラスとなり+0.5%(前年は−0.5%)でした。
全国的に地価の回復傾向が進んでおり、住宅地は新型コロナウイルスの影響前に戻ったという状況です。そして、商業地は回復上昇基調にあるものの、上昇幅は新型コロナウイルスの影響前(2019年)に比べるとまだ小さいです。

3大都市圏の状況

3大都市圏とは、国土交通省の呼び方では「東京圏」「大阪圏」「名古屋圏」と言います。今年の都道府県地価では各都市圏で多少違いがありました。
住宅地においては、3大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)のいずれも前年比でプラス、商業地においても昨年は東京圏、大阪圏でマイナスでしたが、いずれもプラスとなりました。
大都市部において、特に生活利便性の高い地域では住宅需要はかなり堅調で、低金利環境が継続し、住宅取得支援策(例えば、住宅ローン減税)などが需要の下支えとなり、住宅地の地価上昇が顕著になっています。
大都市部の商業地においては、昨年は大阪圏ではマイナスでしたが、今年は東京圏・大阪圏・名古屋圏ともプラスとなっています。個人需要の持ち直しから店舗需要は回復傾向であり、再開発事業が依然活発で、こうした地域では期待感から地価上昇傾向が続いています。
3大都市圏では、全用途平均・住宅地・商業地が3年ぶりにいずれも全てプラスとなりました。

住宅地の状況

ここからは住宅地について見てみましょう。
圏域別では、東京圏+1.2%(前年は+0.1%)、大阪圏+0.4%(前年は−0.3%)、名古屋圏+1.6%(前年は+0.3%)となっています。
地方では地方圏全体−0.2%(前年は−0.7%)で、これは過去15年を遡ってもマイナス幅は最小でした。また、地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると、+6.6%(前年は+4.2%)となりました。

(図1)都道府県地価変動率 直近5年間の推移(4大都府県:住宅地)

(国土交通省「令和4年都道府県地価調査」より作成)

直近5年の4大都府県(東京都・大阪府・愛知県・福岡県)にフォーカスしてみると、図1のようになります。主要都市の住宅地においては2020年の落ち込みは一時的なもので、変化率は概ね(影響前の)2019年を超える水準になっています。

※地方圏(地方四市)とは、北海道札幌市、宮城県仙台市、広島県広島市、福岡県福岡市をいう。  地方圏:地方圏とは、三大都市圏を除く地域をいう。

住宅地地価全国平均の背景にはライフスタイルの変化が

今年の住宅地地価が31年ぶりにプラスになった大きな要因として、地方主要都市が大きく伸びていることに加えて、地方圏の下げ幅が小さくなっていることがあげられます。住宅地地価の上昇の波は新型コロナウイルスの影響で一時的に止まったものの、確実に地方に波及していることがこうした数字からはっきりと見えます。
また、生活スタイル、働き方のスタイルの変化による住まい方の多様化などにより、都市部の郊外や都市への移動がスムーズな地域にも住宅地地価上昇範囲が広まっています。この傾向は首都圏だけでなく他の大都市部、地方主要都市でも同様の傾向が見られます。広さや部屋数にゆとりがあり、家族との時間、自然との時間を大切にする暮らしの広がりが、ジワリと広がりを見せてきています。

商業地の状況

続いて、商業地を見てみます。
国内観光需要・ビジネス需要が回復しつつある状況で、さらにインバウンド需要も回復のキザシが見えてきていることで、人気がある繁華街などでは上昇に転じた地点も見受けられるようになりました。こうした状況により、昨年調査から上昇幅が拡大した地域が多く見られました。
東京圏では+2.0%(前年は+0.1%)、大阪圏は+1.5%(前年は−0.6%)、名古屋圏は+2.3%(前年は+1.0%)となりました。3大都市圏が全てプラスとなるのは3年ぶりでした。

商業地においても地方圏の上昇が顕著となっています。
地方圏全体では−0.1%でプラス圏には届きませんでしたが、昨年は−0.7%でしたので回復基調にあります。地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると+6.9%となり、3大都市圏よりも大きな上昇率となっています。地方圏(4市以外)では−0.5%で、他に比べて回復がやや遅れているという印象です。来訪客が戻っていない地方圏が、まだ結構あると言えそうです。

(図2)都道府県地価変動率 直近5年間の推移(4大都府県:商業地)

(国土交通省「令和4年都道府県地価調査」より作成)

直近5年の4大都市(東京都・大阪府・愛知県・福岡県)の商業地地価の変動率を見ると、図2のようになります。昨年は4大都市でやや違いが見られましたが、今年は概ね似たような数字となっています。

大都市部、地方主要都市部の商業地地価の上昇の背景には、「海外投資家による物件取得意欲が旺盛な事」があげられます。海外投資家から見れば、我が国の不動産投資においては対ドルでの円安が有利に働いていることに加えて、調達金利と利回りの差が他の主要都市よりも大きく取れている、という状況です。現在の日本の金融緩和政策が続く間は、この傾向が続くものと思われます。

2023年はどうなる?

2023年の都道府県地価ですが、少なくとも前半(2022年年末まで)は現在プラス圏の地域は上昇幅拡大、現在マイナスの地域では回復基調で推移するでしょう。後半(2023年の上期)も概ね好調と思いますが、金利の行方次第では上昇基調が続かないかもしれません。いずれにせよ、金利のゆくえに注視していただきたいと思います。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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