建物・土地活用ガイド

2022/05/30

賃貸住宅における建て替えのトリガーと建て替えの流れ

全国で空き家数の増加が取り沙汰されて10年ほどが経過しました。社会問題化した空き家問題について、対処のための法律や各行政による補助金制度ができ、少しずつではありますが、新法や補助金の効果が出始めているようです。
一方、これから増えそうなのが、老朽化した賃貸住宅の建て替えです。ここでは、賃貸住宅の建て替えのトリガーと建て替えの流れについて解説します。

賃貸住宅建て替えのトリガー

賃貸住宅の建て替えの要因となるのは、なんといっても経年による建物の老朽化です。
建物の老朽化を意識するトリガーとなるのが、
 @空室が目立つようになること
 A入居者様客付けに時間がかかること
等があげられます。

「このところ空室が増えているのは、やっぱりウチの賃貸住宅はもう古いのかな…」というオーナー様の声が聞こえてくるようです。
都心の超人気エリアでは築50年を超える賃貸住宅もあり、フル稼働している例も多く見られますが、一般的なエリアでは、築30年を超えた賃貸住宅は競争力を失っていきます。

2022年を基点にすれば、築30年の建物は1992年施工の物件です。まだバブル期の余韻が残っていた頃で、今よりも多くの賃貸住宅が建設されていました。築35年だと1987年建築の物件となり、バブル景気の上昇機運の真っただ中に建てられた賃貸物件の中には豪華な仕様のものもあります。1980年代〜90年代前半に、今では考えられないくらいの賃貸住宅が建てられており、これらが30年超えの物件となっています。

現在はスマホやPCで賃貸物件探しをする時代となり、物件の内覧へ行く前にネットで条件を入れて検索し、選び、不動産会社さんに問い合わせるという流れがほとんどとなりました。
物件検索では立地条件を除けば、まず、賃料、広さ(間取り)、築年数でふるいにかけます。〇万円以下、〇〇u以上、築〇〇年以内、という感じです。そのため、築30年を超える物件では「実際は古さを感じない良い物件だけど、物件案内が入らない…」となってしまう例も多いようです。

言うまでもなく、空室の増加は賃料下落につながります。こうした悪循環が収まらないなら「いっそ建て替えを行おう」と、すぐ決められるといいですが、たいていはそんなわけにはいきません。大型リフォームをすれば、見違えるように新しい賃貸住宅になりますが、表記の築年数は変わりませんので、先に述べた物件検索でのディスアドバンテージに変わりはありません。

空室増、賃料下落は賃貸住宅経営の収益を悪化させます。建物の残りの返済額や、該当エリアの将来に渡る賃貸需要などあらゆる要因から判断して「大丈夫」となれば、建て替えステージに進むといいでしょう。

賃貸住宅建て替えの流れ

一般的に土地・建物の所有権を保有している自宅では建て替えは所有権保有者の意思のみで行うことができます。しかし、賃貸住宅は「普通賃貸借契約」あるいは「定期借家契約」に基づいた賃借人がいる建物となり、賃借権者に許可が必要となります。入居者に対し、一定額のお金を支払い退去してもらう、もしくは一旦引っ越してもらい(その費用も一部または全額負担)、建築後戻ってきてもらう、という許諾をもらいます。ここが大きなハードルとなります。賃借人の方々がすぐに了承してくだされればいいですが、時に弁護士の方に依頼する必要もあるかもしれません。
また、ある時点から順次、退去後の部屋も入居者を募集しないわけですから、その分の収益が悪化することも考慮しなければなりません。

下図は一般的な賃貸住宅建て替えの流れ(概要)を示したものです。

いま述べた許諾は、図の赤い文字で書いたところからスタートです。 このように、賃貸住宅の建て替えにはかなりの時間を要する可能性があります。そのため、建て替えの検討時には建設会社に管理会社との調整を含め退去についても相談しておきましょう。 

現在賃貸住宅をお持ちの方は、いずれ建て替えするかどうかを検討する時期が来ます。そのためにも、早くから情報を仕入れておくとよいでしょう。

吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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