
- 工事担当エピソード
現場で気づかされた、仕事や人生に対する問い

解体工事には騒音・振動は無論のこと、近隣の方々にとっては懸念材料が満載です。
埃の問題や、さらにアスベストなどがあった場合は「適正に処理されているのか?」と、疑いの目で見られることも少なくありません。まさに、四面楚歌のような状態で工事は進んでいくのです。
このように書いてしまうと解体工事をとても後ろ向きな仕事であるかのようにとらえられるかもしれません。でも実はそうでもなく、この四面楚歌の状況からどう脱するか、いかに近隣の皆様との友好関係を築くかに目を向けると、意外にも楽しみがあるのです。
私のこれまでの業務を振り返ると、とあるマンション建築計画の既存建物解体現場の、お隣の方との関係構築がそれに該当するでしょうか。
80代前半とお見受けするこの方は木工所を営まれており、少し気難しいご様子と歯に衣着せぬ話しぶりが印象的で、当初は接し方に迷うこともありました。
解体初日にご指摘をいただいたのを皮切りに、ことあるごとにご意見をいただき、その都度対応をしていました。とはいえ、まったく音を出さずに作業することは不可能です。ですので、毎朝作業が始まる前には、「今日はこういう作業を予定しており、この時間帯は騒音が出ます」と、木工所へお伺いするのが日課になっていました。
ある朝いつものようにご挨拶に行くと、「今日は大事な人からご依頼のあったテーブルをつくり始める日なので、構想を練る午前中は少し静かにしてもらえるかな?」と頼まれました。
いつもの、『また来たのか、わかったよ!』と言わんばかりの口調が、その時ばかりはとても穏やかでした。遠くを見つめるような表情でお話しになられる様子に、「これは何かあるな」と直感した私は、その日の午前中いっぱい、業者に無理を言って重機作業を中止しました。
次の朝、「今日の午前中は、作業をしてもよろしいでしょうか?」と小声でお伺いすると、なんとなく晴れやかな表情で、「もう構想はできたから、いいよ」とおっしゃいました。それから、「構想が完璧にできると、後は彫るだけだから。この構想が重要なんだ。あなただって、この建物どうやって壊そうかなって、ああでもない、こうでもないと考えるだろう?」と言われたのです。
私はこの方の言葉に、ハッとしました。私の場合は、建物を解体することに慣れてしまって、そこまで考えてはいなかったからです。
建物をどう解体しようかとか、あのやり方で進めるか、それとも別の方法が良いだろうかなど、自分は一つひとつの作業を真剣に考えていただろうか? 現場に戻ってそう自問自答しました。
初めは、「少し苦手だな」と感じて敬遠していた方との対話で、私は大切なことを教わりました。
それは大袈裟かもしれませんが、「あなたは真剣に、ああでもない、こうでもないと考えているの?」と、仕事や人生に対する問いを、突き付けられた一瞬でもありました。






