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2023/01/13

新工場建設において検討される国内回帰

「自動車メーカーや家電メーカーなどが相次いで国外から国内に工場の拠点を移している」というニュースが報道されるようになりました。一昔前までは製造拠点を海外に置くことで人件費の高い国内で生産するよりもコストを抑えられ、収益を上げられるという考えが主流でした。では、なぜ現在の工場建築のトレンドは海外進出から“国内回帰”にシフトしつつあるのでしょうか。

加速する工場施設の国内回帰

日本企業の海外進出が目立ち始めたのは、1985年のプラザ合意後です。円高の流れもあり、生産コストが低い海外への工場移転が少しずつ進められました。その後バブルが崩壊し、デフレ経済が続きました。1990年代後半からは、日本企業はアジア諸国の“低コストの労働力”を求めて中国をはじめベトナムやタイなどへ生産拠点を移転させてきました。
しかし、このところ国内回帰が進んでいます。

国内回帰が加速している主な原因として、「円安の進行」が挙げられます。世界各国で対ドル通貨安となっており、基軸通貨であるドル高は各国経済に影響を与えています。製造業で見れば、円安が進めば海外拠点での生産コスト(労働人件費・原材料費など)が高騰します(ドル建て取引での場合)。人件費削減のために生産拠点を移したにもかかわらず、その恩恵を得ることができないというわけです。そのため、様々な分野の製造業が「海外に生産拠点を持つよりも国内生産が有利」と考えているようです。

また、エネルギー価格上昇に伴う物流コストの増加も、海外生産拠点を持つ企業には頭の痛い出来事です。エネルギー価格の高止まりはかなり続きそうですので、こうしたことも国内回帰の要因の1つでしょう。


円安で広まるリショアリング

2017年版の「ものづくり白書」によれば、海外に工場を持つ日本企業の1割以上が、2016年の一年間に国内へ生産拠点を移しました。こうした企業が海外へ移管・委託した業務の拠点を再び国内に戻す動きを「リショアリング(reshoring)」と呼びます。昨今の円安傾向により、製造業のリショアリングはさらに本格化するものと見られています。

しかし一方でこの動きは一時的なものであるという見方もあります。実際に日本企業の海外進出の動きが全くなくなったわけではありません。為替の変動に関わらず、製品の需要がある国・周辺地域での生産を行おうとする企業も多く、すべての企業(あるいは業界)に共通した流れではありません。生産拠点を国内・海外のどちらに求めるのかは、それぞれの企業の戦略次第と言えるでしょう。


国内回帰で経済効果や地域創生も期待

「国内、海外と生産拠点を分散させる」というスタンスも依然としてあります。
大きな工場の建設は基本的に地方ですので、国内回帰は新たな雇用を創出し地方経済を後押しすることも期待されています。実際に国内回帰を公表した企業には地方自治体からの問い合わせも増えてきているようです。
自治体的には該当地域の税収が増えること、地域の住宅需要が増える事、その他地域経済の活性化につながるなど良いことが多くあります。

安価な労働力を求めて海外に生産拠点を求める時代は終わりを迎えようとしています。技術力や生産力の差が顧客満足に直結するだけに、国内に生産拠点を持つ方が収益アップの可能性も高くなるかもしれません。

監修 : 吉崎 誠二 Yoshizaki Seiji

不動産エコノミスト、社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書
「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
レギュラー出演
ラジオNIKKEI:「吉崎誠二のウォームアップ 840」「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/

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